先人の歩みを一冊に 商業関係の有志ら制作 『大船渡まちなか昭和史』発刊

▲ 昭和期の変遷をまとめた『大船渡まちなか昭和史』

 大船渡市大船渡町の商業関係者らで組織する「大船渡まちなか昭和史研究会」(菅野佑三会長)は、町内の商業・経済発展の歴史などをまとめた『大船渡まちなか昭和史~渋沢栄一も夢見た大船渡の発展~』を発刊した。東日本大震災による復旧・復興事業で中心市街地が大きく変貌した中、先人が築いた発展の足跡や記憶を後世に伝え残そうと制作。先着順で被災者への無償頒布を行っている。
 大船渡町の駅前中心街などは、昭和35年のチリ地震津波からの復興や経済成長の流れに乗り、大きく発展を遂げた。マイヤの前身にあたる「主婦の店」をはじめ大規模な商業施設の周辺に専門店が並び、充実した商店街が形成された。
 10年前の震災では、湾岸の各施設・商店街は壊滅的な被害を受けた後、かさ上げ整備などによって新たな商店街が形成された。同会では「かつての町並みや発展を支えてきた先人の業績をまとめ、次世代に託したい」との思いから編集。市の市民活動支援事業補助金による助成に加え、市内各事業所などから協賛も得た。
 第1章では明治から戦前までの足跡に迫り、浜街道をはじめとした道路環境や大船渡湾の港湾整備、魚市場やセメント産業の経緯などをまとめた。今年のNHK・大河ドラマで描かれている実業家・渋沢栄一らによる大船渡築港事業にも触れた。
 第2章は「昭和のまちなか商業界」として、高度経済成長期までの商売などの変遷を紹介。第3章では、大船渡で事業を立ち上げ、経済のみならず雇用や地域活性化も先導した「先駆者」に光を当てた。現在の台町、茶屋前地域にあたる「茶ヤ組」の昭和初期の地図や、川原町女相撲甚句の由来なども参考資料として添えた。
 津波で多くの資料も流された中、先人の言い伝えや記憶も丁寧にたどりながら発刊に至った。巻頭で菅野会長は「昭和のまちなか商店街では、店舗兼自宅がほとんどの商店主たちが、人間関係を大切にしながら商店街活動を続けてきた」と述懐する。
 そのうえで「この本の全体を通して、震災以前の大船渡町の商店街発展の経緯を、読者の皆さまに思い巡らしていただき、明るく、にぎやかな未来の大船渡のまちへとつなげていただければ本望」と、発刊への思いを寄せる。
 A5判、288㌻。500部は被災者を中心に無償頒布を行っており、大船渡町のマイヤ大船渡店や、キャッセン大船渡内の市民活動支援センターで対応。頒布は29日から始まり、同研究会によると、残りわずかになっているという。