東日本大震災10年 復興再点検①/「ついの住まい」家賃不安 厳しさ訴える収入超過世帯
令和3年4月11日付 1面

東日本大震災から10年が経過した。気仙ではこれまでの間、被災者のついの住まい確保やなりわいの再生、インフラの整備など、各種の復旧・復興事業が繰り広げられ、その多くが形となってきた。こうした「新しい器」のもとでの営みは、被災者や地域に希望をもたらしている一方で、課題も見え隠れする。気仙が歩んできた復興への道のりを振り返りながら、これからの針路はどうあるべきかを探っていきたい。(随時掲載)
東海新報社は震災10年の節目を機として、被災者向けの災害公営住宅に暮らす世帯と防災集団移転地などに住宅再建した2394世帯にアンケート調査を実施。836世帯からの回答を得た。
このうち、災害公営住宅からは375世帯が回答。この中で、いまの暮らしの満足度や復興感へのマイナス評価要因として際立ったのが、家賃にかかることだ。
災害公営住宅は、気仙では大船渡市で市営と県営合わせて25団地801戸、陸前高田市で同じく11団地895戸が整備された。今年1月現在の入居戸数は、大船渡市で738戸、陸前高田市で780戸となっている。
公営住宅法では、基準収入額以下の低額所得者であることが入居要件として定められているが、災害公営住宅については特例として収入にかかわらず入居できるようになっている。
その家賃月額は、世帯の総所得金額から控除額を差し引き、12で割って算出される「政令月収」などによって決まる。これが15万8000円(高齢者のみ、障害者や未就学児がいる世帯=裁量階層=は21万4000円)を超える「収入超過世帯」を中心として、不安の声が聞かれる。
働き盛り世代が主体とみられるこうした世帯は、入居3年経過後から住宅の建築費などをもとにした「近傍同種家賃」が適用される。
本来は低額所得者向けであるという公営住宅の原則にのっとった対応で、割り増し家賃が加算される形で段階的に近傍同種家賃まで引き上げられ、明け渡しの努力義務も生じる。政令月収が31万3000円を超える「高額所得世帯」については、家賃引き上げとともに、明け渡し請求も行われる。
災害公営住宅の建設費は復興需要で高騰。これに従って近傍同種家賃も高額になり、気仙では3DKで20万円ほどになる見通しの団地もあった。
この中、県では平成30年4月、同25年完成の平田アパート(釜石市)のケースを適用した1DK6万1600円、2DK7万1500円、3DK7万7400円を上限に設定し、本来の割増分を差し引くという減免措置を導入。気仙両市もこれに準じた対応をとっている。
気仙の災害公営住宅は平成29年度までにすべてが完成しており、「近傍同種化」に直面する世帯もある。政令月収15万8000円は、「超過」の字面から受け取れる印象とは違って特別に収入が多いわけではなく、被災によるゼロあるいはマイナスからの立て直しを余儀なくされている。
本紙アンケートには、「家賃が高騰し、新たに借金をして住宅を購入することになってしまった」(大船渡市50代男性)、「最高額の家賃を払っているため、貯蓄が厳しい」(同市30代女性)、「入居して4年が経過し、家賃が高額になって生活が脅かされるとは思わなかった」(陸前高田市50代女性)などと、減免のもとでも厳しさを訴える声が相次いだ。
大船渡市では、令和3年度当初家賃で収入超過世帯は31世帯、高額所得世帯は5世帯。2年度中に退去した29世帯のうち、収入増加で家賃が高くなったため退去したのは2世帯だった。
陸前高田市は引き続き災害公営住宅に入居できるよう、「みなし特定公共賃貸住宅(みなし特公賃)」制度を令和元年度に創設。政令月収15万8000円以上48万7000円以下の中堅所得層が対象で、今年3月末時点で被災32世帯のほか、一般8世帯も利用している。
一方、高齢者が主となっている政令月収8万円以下の低額所得世帯向けの減免は、国の制度が住宅管理開始から10年を期限としている中、両市など県内自治体は世帯人員や総収入額区分に応じた率の減免を国の期限以降も受けられる独自措置を打ち出し、県の取り組みと歩調を合わせている。
被災世帯の「ついの住まい」の大義で構えられた災害公営住宅。入居者の高齢化、これに伴う自治会運営の担い手不足が叫ばれる中、民間の賃貸住宅などとのバランスを踏まえながら、働き盛り世代のフォローアップ策をいつまでどのようにして講じていくのかも、復旧・復興の先の大きな課題の一つだ。