東日本大震災10年/「あなたを忘れない」 震災犠牲者宛ての絵手紙送る 八戸市の有志らが荘厳寺に

▲ 八戸市の有志から送られた絵手紙を持つ髙橋住職

 青森県八戸市在住の有志らが、東日本大震災の犠牲者に宛てた絵手紙を陸前高田市竹駒町の功徳山・荘厳寺(髙橋月麿住職)に送っている。同寺本堂には、八戸出身の髙橋住職(75)が手書きで作成した約2000人分の犠牲者名簿が掲示されており、「あなたを忘れない」という思いを名簿に重ねている。

 

 絵手紙を送っているのは、髙橋住職の中学、高校時代の同級生ら約10人。習字や絵はがきの愛好者らでもあり、八戸では定期的に集まり作品づくりを行って交流する。
 髙橋住職が本堂に震災犠牲者の名簿を掲示し始めたのは昨年8月。これがきっかけとなり、名簿に記されている犠牲者一人一人にあてた絵手紙を書いて送る活動を始めた。現在までにおよそ700枚もの絵はがきが寄せられ、枚数は今も増え続けている。
 絵手紙には、果物や草花、四季の風物詩などを描いた素朴で優しい色合いの絵とともに、何気ない日常を表すコメントが添えられる。宛名を書く面には同寺の住所と犠牲者の名前とともに、絵手紙を制作した人の名前も記されている。
 制作者の一人の吉田雪枝さん(74)は「髙橋さんが名簿を書いていることを知り、私たちにも何かできないかと思って始めた取り組み。絵手紙は友人や親戚の人に送るように、親しみを込めて書いています」と語る。
 絵手紙の制作者らにとって、震災犠牲者は「顔も名前も知らない人たち」。しかし、八戸にも大きな被害を及ぼした東日本大震災津波や昭和35年のチリ地震津波などの記憶から、犠牲者の生前に思いを寄せる。
 髙橋住職は一昨年4月に陸前高田市に移住し、同寺住職となったのが昨年のこと。震災直後のまちの状況などは、檀家(だんか)や同寺を訪れる地域住民らの声に耳を傾ける中で知った。震災から10年がたった今、被災者の心の傷が癒えずに残っていることや、地域内外で災害に対する警戒心が薄くなっていることを実感しているという。
 犠牲者名簿は、発刊されている震災記録集やインターネット、住民から寄せられる情報などをもとに名前や享年を調べ、地域別に半紙に筆書きしたもの。本堂に掲示しているのは主に気仙の犠牲者で1999人分あり、掲示していない全国の分を含めると4700人余りに及ぶ。
 髙橋住職は「震災犠牲者を思い続けることが、私たちにできる一番の供養。名簿に書かれている人が知らない人でも、名前や年齢、地域を見れば、その方の生きていたころについていろいろと思いをはせることはできる。一方で、犠牲となった方を知る人は、名前を見つけると当時の気持ちを思い起こすことができるのでは」とし、名簿が犠牲者らの生きていた証しの一つとなるよう願う。
 絵手紙は、名簿とともに本堂に置き、同寺を訪れた人から希望があった場合は贈呈している。
 吉田さんは「誰かにあてた作品をつくるというのは、私たちにとっての生きがいにもつながっている。絵手紙は、まだ書いていない犠牲者の方がいる限り、書いて送り続けたい」と話している。