「てんでんこ」外国人にも 中国出身・邢さんが東日本大震災津波伝承館の解説員に
令和3年4月23日付 7面

中国・山西省出身の邢慧娟さん(26)=大船渡市=は本年度、陸前高田市気仙町の東日本大震災津波伝承館の中国語解説員に着任した。震災から10年超が経過し、被災地では被害と教訓を次世代、世界に伝えていくため、若い語り手の確保やインバウンド(訪日外国人旅行者)への対応が課題となる中、中国の内陸部出身の自身のように、もともと津波を深く知らない人たちにも「津波てんでんこ」の教えを広く伝えたいと意気込む。
留学機に防災の道志す
今月着任し、現在は週4日、同震災の被害や館内の展示内容などを研修で学んでいる。
中国でも人気の「名探偵コナン」や「ワンピース」など日本のアニメが幼い頃から好きで、山西省の大学で製品デザインを学んだ。日本で専門的にデザインを学ぼうと平成29年秋に来日し、盛岡市内の専門学校で日本語を習った。
その後、岩手大大学院に進学。デザインやメディアなどについて学んだ。災害や震災復興に関する授業も受け、宮古市など沿岸部を訪れたこともある。
自身は中国の内陸部の出身で、震災発生当時は高校生。テレビのニュースで被災地の津波の映像や東京電力福島第一原発事故の報道を見ていたが、「海がない地域で育ったので、当時は津波がどういうものか分からなかった」と衝撃を受けた。
留学生向けの就職支援で解説員の仕事を知って志し、県の会計年度任用職員として採用された。
研修では、陸前高田市内で津波を受けたタピック45(旧道の駅高田松原)などの震災遺構を目にし、津波の威力と高さを感じ、改めて驚いた。地震が起きたらてんでんばらばらに逃げる「津波てんでんこ」の言葉と意味を早速覚えた。「内陸部などには津波を知らない人もたくさんいると思うので、地震がきたら自分の命を守るために逃げるということを伝えていきたい」と教訓を胸に刻む。
同館で解説するうえでは、言語に加え、消防団など中国にはない日本の組織などを理解するのに戸惑うこともあるというが、同館の立花起一副館長は「日本語が上手で解説員として大切な笑顔も絶やさず、一生懸命勉強している様子。(同館では)多言語対応に力を入れており、国外への発信役となってほしい」と期待を寄せる。
解説員としてのデビューは、今年夏ごろの予定。国際的な震災伝承の担い手として、一歩を踏み出した邢さんは「中国語と日本語を使い、津波災害を分かりやすく伝えていきたい。次の災害で多くの人が亡くなることがないよう、デザインを学んできた経験も生かし、海外の人も見て分かりやすいようなパンフレット作りに取り組みたい」と目標を掲げる。