人や風景 広田の輝き伝えたい 神奈川出身の飯塚さんが写真集「報せ」自費出版 〝のぶこばあちゃん〟の日々追う

▲ 飯塚さん㊨から写真集を受け取った村上さん

 神奈川県川崎市出身で、現在は陸前高田市広田町に住む写真家・飯塚麻美さん(24)は、自身初となる写真集「報せ」(A4判変形、100㌻)を自費出版した。6年前に出会い、家族のように慕う同町の村上ノブ子さん(84)の日々の暮らしを追いかけた作品を収録。25日(日)からは同市小友町の箱根山テラスで写真展を開き、〝のぶこばあちゃん〟の日々を通じ、広田の「今」を生きる人の輝きや、美しい風景と出合った感動を伝える。

 

あすから写真展も

 

 飯塚さんは、東京の明治大学に入学した平成27年春に初めて広田町を訪問。東日本大震災後、町民と全国の大学生の交流を後押しするNPO法人・SET(セット、同町)のメンバーから誘われたのがきっかけで、その後も月に1度のペースで東京と広田を行き来した。
 村上さんとは、セットの学生メンバーとして活動を行う中で出会った。旅好きで「一つの場所にとどまれない」という飯塚さん。広田という土地にあって「朝起きて、漁業や畑仕事をして、帰ったらご飯を食べて就寝する毎日」を繰り返す村上さんの姿に触れ、飯塚さんにとって「未知の世界で、強く引かれた」という。
 旅行用に買ったカメラを持ち、村上さんの姿を追いかけては写真に収めた。村上さんは「何を撮ってるんだか」と不思議がりながらも、孫を見るように、夢中でシャッターを切る飯塚さんのことを温かく受けとめた。
 大学を卒業するころ、飯塚さんは写真家になることを決心。「何を撮りたいか」という自問に対し、思い浮かんだのは村上さんの姿だった。卒業後も広田に通い、昨年春にはセットが開くシェアハウスに住み込みながら、村上さんやセットのメンバーらと過ごす日々をカメラに収めた。
 そして、「撮りためた写真がたくさんあり、一度外に出して、自分の作品を俯瞰(ふかん)的に見たかった」との思いで、写真集の自費出版を決意。
 ある日村上さんの家で、船乗りだった夫が送ったという過去の電報を見せてもらったことも決断を後押しした。「〝のぶこばあちゃん〟が生きてきた時間の積み重ね」「遠くにいる誰かを思うはかなさ」からインスピレーションを得て、「写真を撮ることは、未知の世界から〝報せ〟を受け取ることのよう」とテーマが定まった。
 写真集は、村上さんの過去に思いをはせる「水平線の向こうから」と、現在の姿を写す「たしかなことは」の全2章で構成し、計82枚の写真を収録。船が行き交う漁港の風景や畑に実った野菜などの日常風景、明るくも繊細な村上さんの日々の表情が、飯塚さんの視点で捉えられている。
 出版にあたっては、村上さんをはじめセットのメンバーらから後押しを受け、不足分の資金はクラウドファンディングを活用して募った。各方面からの応援を受けてこのほど完成し、飯塚さんは「すごく大事な宝物」と表情を和らげる。
 25日から5月9日(日)にかけては、小友町の箱根山テラスで写真展を開催。写真集に収めた写真のうち50枚ほどを展示し、写真集の販売も行う。時間は各日午後1時〜8時(27、30、5月7各日は休み)で、入場無料。
 写真集は税込み2750円。300部発行し、今後、ネットショップや陸前高田市の書店などで販売が始まる予定。
 村上さんは「自分が写っていて、恥ずかしさもあるが、いい記念になった。写真のことはよく分からないけど、写真家さんの視点が感じられる作品だと思う。ぜひこれからも上を目指して写真を撮り続けて」とエールを送る。
 飯塚さんは「この場所に来て、のぶこばあちゃんたちに背中を押してもらったから今がある。写真家としてこれからどんな活動をするかはまだ決めていないけど、これからも多くの人の生き生きとした姿をカメラに収めていきたい。応援してくれた人たちのためにも、一流の写真家を目指します」と誓う。