宇宙物理学「超難問」に迫る 佐藤さん(下有住出身)らの研究 超新星爆発メカニズムの論文で科学誌『ネイチャー』表紙に採用

▲ X線を用いた高エネルギー宇宙現象や超新星残骸の観測研究などを続ける佐藤さん

 住田町下有住出身で、立教大学理学部物理学科助教の佐藤寿紀さん(30)らによる国際共同研究グループが、NASA(米航空宇宙局)が打ち上げたチャンドラ衛星のX線観測記録などから、宇宙物理学の「超難問」とされる大質量星の超新星爆発メカニズムに関する論文を発表し、世界最高峰の総合科学誌である『Nature(ネイチャー)』の表紙を飾った。宇宙にある〝元素工場〟の観測を通じ、人々の身近に存在する物質の起源が明らかになる過程の一つとして、今後の可能性が広がる。佐藤さんはさらなる研究に加え、雑誌掲載までの経験を伝え、若手研究者の挑戦をけん引する。

 

宇宙の〝元素工場〟を観測

 

 佐藤さんは下有住小から有住中、大船渡高、首都大学東京(現東京都立大学)と進み、米国・ラドガース大学客員研究員などを経て、首都大学東京の博士課程を修了。中学時代から、宇宙分野に関心を持ち、勉学を重ねた。
 平成30年4月から今年3月までの3年間は、理化学研究所基礎特別研究員として玉川高エネルギー宇宙物理研究室に所属。X線を用いた高エネルギー宇宙現象や超新星残骸の観測研究、X線望遠鏡の開発に携わる。
 佐藤さんらのグループは、超新星爆発後に形成される衝撃波で超新星物質が加熱され、高温プラズマとして光る天体の超新星残骸「カシオペア座A」が、ニュートリノ加熱が引き金となって爆発した重力崩壊型超新星の名残であるとの観測的証拠をつかんだ。
 X線観測を行ったチャンドラ衛星は、平成11年7月にNASAが打ち上げ、X線帯域では世界一の角度分解能を誇り、鮮明な天体画像が取得できる。カシオペア座Aは地球から1万光年ほど離れ、太陽の15倍程度の重い質量の星が爆発した名残とされる。
 太陽の10倍以上の重さを持つ星が爆発した時の超新星は、重力崩壊型超新星と総称される。星の内部に形成される鉄のコア(核)は、最終的には星自身の重力を支えきれずにつぶれる「重力崩壊」を引き起こす。これにより、コアの中心では高密度天体である原始中性子星が生まれる。この表面に物質が降着して跳ね返ることで、外側へと向かう反射衝撃波が形成され、星の表面まで達した時、その星は爆発する。
 こうしたメカニズムの解明が、宇宙物理学上の「超難問」とされ、大規模な理論計算を用いても再現が困難だった。有力とされているのが、星が重力崩壊する時に大量放出される「ニュートリノ」の一部エネルギーが物質を加熱し、超新星爆発を引き起こす説。ただ、ニュートリノ加熱を裏付ける観測的証拠がなかった。
 カシオペア座Aには飛び出た構造が確認され、その主成分が鉄であることは、平成12年初期に指摘されていた。本来、鉄は超新星の最深部のみで大量に合成されるといい、爆発によって飛び出たことを確認するため、研究グループは平成12年から18年間の観測データを総動員し、構造内の元素を調査した。
 結果、チタンやクロム、鉄などの超新星エンジン周辺で合成される金属元素が、飛び出た部分にも同時に存在することを確認。超新星爆発前の「陽子過剰な環境」で合成されるものと一致することが分かった。これにより、カシオペア座Aの鉄が豊富な構造はニュートリノ構造によって生み出されたと結論付け「超新星の衝撃波がニュートリノ加熱で復活した証拠」とまとめた。
 佐藤さんは「理論と観測のチームが力を合わせ、これまで踏み込むことがなかった領域に入った。今後も、国内外の観測と理論の研究者と協力しながら、新しい解明を導きたい」と語る。同研究所のスーパーコンピューター「富岳」や、来年度打ち上げる次期X線天文衛星を組み合わせることで、さらなる成果にも期待が高まる。
 また、身近な生活でも欠かせない金属のチタンが、超新星爆発時の上昇流内で大量に合成されていることも初めて観測された。上昇流内では、他にもさまざまな希少元素が存在すると考えられており、こうした観測を通じて、宇宙に存在する〝元素工場〟から、人間の暮らしを支える元素の起源が明らかになることも考えられる。
 佐藤さんは自身のホームページで英国誌『ネイチャー』への投稿から採用までを振り返り、編集者とのやりとりや、そこで感じた調整・交渉のポイントなどを解説。「自分のような無名の若手研究者で、このようなタイプの雑誌への投稿をしたいと思っている人に、参考になってほしい」としている。
 さらに「田舎では、科学に興味を抱いても、情報に触れる機会が少ない。それでも、興味を持ちながら走ってきたからこそ、世界で戦えるようになった。自分の経験や知識を伝えるなどして、貢献ができれば」と、古里の子どもたちにも思いをはせる。