視点/大船渡市議会 市長らの給料削減案に異例の否決㊤
令和3年5月15日付 1面
10日に開かれた大船渡市議会臨時会では、吉浜地区太陽光発電事業計画における不適切な事務処理を巡り、当局側が戸田公明市長と志田努副市長の6月給料を10%削減する条例改正案を提出したが、賛成少数で否決に終わった。戸田市長も「当局議案が否決されるのは記憶にない」と語る中、議会となぜ、折り合えなかったのか。当局の説明に、議員が納得できなかった点は何か。同日の論戦や議会終了後の市長と副市長への取材、これまでの発電事業計画を巡る動きから検証したい。(佐藤 壮)
不適切な事務処理、当局対応に厳しい姿勢
現段階での「責任」納得せず
「なぜ、この5月のタイミングなのか」
「この問題に関しては告発状が出ている。捜査当局の結論を見極めながら議案を出すのが、普通の流れではないか」
賛成した議員も、反対に回った議員も、似たような質問で当局に迫った。当局側は「一定の区切り」「けじめ」といった言葉を使いながら、内部調査を踏まえた対応であることに理解を求めた。採決では賛成7、反対10となり、10年以上続く戸田市政の中でも、異例の否決に終わった。
臨時会冒頭、発言に立った戸田市長は、吉浜地区太陽光発電事業に伴う市有地の昨年3月31日付での賃貸借契約に関し、市と事業者との間で、日付をさかのぼって契約手続きを行った不適正な事務処理を巡り、当時の事実関係や対応について報告。「行政不信を招く結果となったことを大変申し訳なく、深く反省している」と陳謝した。
議会では半年以上にわたり、この問題が取り上げられてきた。当局は、民法上は違法性はないものの、契約確定日の原則など地方自治法に抵触し、不適正な事務処理だったとの認識を示してきた。
さらに、臨時会の答弁では内部調査の一端に触れた。契約を交わした事実検証に加え、遅延理由書の提出がギリギリになった事業所側の対応の理由、職員が一連の事務処理を行った動機などの確認を行ったことなどを明かした。
本来の対応として「3月31日に起案を回しきって契約をしなければいけなかったのではなく、4月中の日付の契約でも、3月末から効力が発生するようにすれば良かった」などと答弁し、職員間のコミュニケーション不足などを背景に挙げた。終始、市側に落ち度があったことを認め、再発防止の姿勢も掲げた。
一方で議員側は、住民有志で構成する「荒金山・大窪山太陽光発電所建設に反対する会」の関係者が今年3月、岩手県警に刑事告発した動きも絡め、対応を考えていた。告発では「市長と副市長は市職員と共謀し、変更契約を3月31日に行ったように見せかけるため、内容虚偽の公文書である稟議書を作成し、行使した」などと指摘。捜査当局の結論はまだ、明らかになっていない。
責任を示す姿勢は、時期尚早ではないか──。当局提案に抱いた議員側の違和感を、払拭(ふっしょく)できずに終わった。
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この問題は、「反対する会」が昨年、市議会に市有地の賃貸借契約等のあり方に関して調査を求める請願書を提出したことで表面化した。昨年9月に行われた総務常任委員会の調査で、市当局は4月に入ってからの契約事務を認めた。
「反対する会」の関係者は当初から、太陽光パネルの設置場所に関する計画を変更して間もない年度末段階での、市と事業者によるやりとりに着目。請願審査の過程で遡及(そきゅう)を認める以前に、開示請求で得た起案文書の「不整合」に気づいていた。
3月末と4月以降では、副市長の入れ替わりや幹部職員の人事異動で押印者が代わる。日付が3月末の起案文書に4月に着任した幹部職員の押印があったほか、4月上旬における市と事業者とのやりとりを残した資料でも賃貸借契約の延長を行っていないことがうかがえる文言を見つけ、疑義を抱いた。
臨時会で市長は、事務処理の不適切な部分に関しては、4月の押印段階ではなく、請願審査が行われた9月に気づいた旨の発言を残した。ただ、関係職員による当時の押印に関する経緯は、質疑では踏み込んだ議論にはならなかった。
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吉浜地区の太陽光発電事業計画では、推進姿勢を掲げる市側と、反対を訴える同地区住民との対立が深まり、整備の是非や今後の行方が、大きな市政課題となっている。事業に対して、推進か否かを示す前段階として、より透明性がある判断材料を求める姿勢も、今回の否決という結果に反映されたのではないか。
一方で、臨時会では質疑終了後、議員による賛成討論も反対討論もなく、採決に入った。明確に反対理由を述べたうえで質問に立っていた議員は1人だけ。他の議員は、何を選択軸として、賛成、反対の結論を固めたのか。論点が整理されないままの採決によって、あいまいさも残った。