おかえり 浜辺の〝青紫〟 高田松原に海浜植物戻る ハマエンドウが自然再生
令和3年5月20日付 3面


東日本大震災の大津波により、約7万本あったとされる松林の消失や地盤沈下など壊滅的な被害を受けた陸前高田市の高田松原。県と市民団体などが計画していた計4万本のマツ苗の植樹が18日までに完了し、夏には海水浴場としての復旧も計画されている。4月から誰でも足を踏み入れられるようになった高田松原の一部では現在、震災前と同じハマエンドウなどの好砂性の海浜植物が戻りつつあるのが確認されており、砂浜に広がる青紫の花は市民らに懐かしさと喜びの感情を呼び起こしている。
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大震災でおよそ9割が失われ、県が再生工事を進めてきた高田松原は、事業総延長1750㍍のうち1000㍍の砂浜を人工的に整備。この春から一般開放が再開された。
その砂浜にハマエンドウが戻っていることは、日ごろから植樹活動で立ち入ることも多かった同市のNPO法人・高田松原を守る会(鈴木善久理事長)のメンバーらも驚きを持って受け止める。同会の小山芳弘副理事長(69)は「養浜事業が終わるまで、まじまじと浜辺を見たことはなかったが、咲いていることに気づいたのは今年初めて。もともと松原にあった花だから、見つけた時はうれしくなった」と喜ぶ。
ハマエンドウは日本各地の海岸に分布する海浜植物。日当りのいい砂地の地表面に沿って茎を伸ばし、はうように広がる。花期は4~7月で、スイートピーに似た濃い紫色の花を咲かせる。
県沿岸広域振興局大船渡土木センター河川港湾課によると、「養浜事業に使われた砂は9割方、宮城県から運ばれてきたものだが、高田松原に本来なかった種などが混ざって生態系を壊さないよう、事前に砂を洗っている。別の場所由来ということはほぼ考えられず、地元にある種で育ったものと思われる」という。
震災前に書かれた陸前高田市立博物館紀要によると、かつての高田松原には、ハマニンニク、コウボウムギ、オカヒジキ、ハマナス、ハマヒルガオといった好砂性植物が多数自生。また、震災発生直後の6月に本紙が撮影した松原の写真にも、ハマエンドウやニッコウキスゲの花が、折れたマツの間に咲く姿が写っている。
同市立博物館主任学芸員の熊谷賢さん(54)は「今年、松原の植樹会に参加した時に見た砂浜の質が、個人的には震災前とはやはり違うなと感じたが、ハマエンドウが咲いているのに気づいて感動した」といい、「自然の力はすごい。今ある砂浜はまだ一部で、その再生にはとても長い時間がかかると思うが、いずれ気仙川によって砂が運ばれ、昔のような浜も戻ると思う」と語る。
さらに熊谷さんは、「松林がもっともっと大きくなったら下草となる植物も戻り、今度は海浜性昆虫も再び生息できるようになる。陸前高田が最大の生息地だったハマベゾウムシなどの虫が戻ってきてくれるのも楽しみ」と話し、高田松原の未来に期待を寄せる。