東日本大震災10年/高田松原で楽しい思い出を 再び海水浴場監視員に 震災前知る阿部さん(高田町)

▲ 7月17日から海水浴場が開設される高田松原の砂浜を歩く阿部さん。「みんなにとって楽しい夏であってほしい」と強く願う

 よみがえった砂浜で思い描く笑顔と歓声――。陸前高田市高田町の運転代行業・阿部由男さん(67)は、東日本大震災から10年を経て、7月に「復活」を遂げる同市の高田松原海水浴場で、再び監視員を務める予定だ。若い頃からサーフィンに情熱を注ぎ、大好きな地元の海。海水浴客一人一人に楽しい夏の思い出を作ってもらうためにも、安全を守る業務開始に向け、気を引き締める。

 

 寄せては返す波の音が心地よい海岸線。「あぁ、こんな感覚だったな。久しぶりだから。サンダルやはだしで歩けばもっといいだろうね」。4月から一般開放されている高田松原の砂浜を初めて訪れた阿部さんが、砂の感触を確かめてほほ笑んだ。
 20歳の時にサーフィンの魅力に目覚め、海のとりこになった。心躍るビッグウエーブを追い求め、市内外の海に通い続けた。はじめは珍しかったサーファーが県内でも少しずつ増え、古参の一人の阿部さんは日本サーフィン連盟の本県支部組織立ち上げにも携わった。
 「どんなに嫌なことがあっても、海に入り、波に乗っていると不思議と全部忘れてしまう。仲間たちと夜明け前に集まったりしてさ。楽しい思い出ばかりだよ」。阿部さんが若かりし頃を懐古する。
 40代の時に、観光物産協会職員から「監視員が足りなくて困っている」と相談を受け、「楽しみをくれた海への恩返し」のつもりで引き受けた。以来、本業の運転代行と並行しながら、震災前年の平成22年まで毎シーズン、高田松原で監視員の仕事を続けた。
 安全を提供するため、緊張感を持って業務に臨んだ中で、やりきれない思いも味わった。海水浴客が落雷や水難事故で亡くなる悲劇を2度現場で見てきた。「どちらも家族連れ。楽しい思い出で終わるはずだったのに…」。教訓として心に刻んでいる。
 いよいよ迎える海開き。「不安は決してゼロではない。みんなに震災を乗り越えた高田松原で楽しんでもらいたいという、願いはその一点だけ」と強調する。「大勢の人が集まる人気スポットゆえに、何が起きるか分からない。ほかの監視員と力を合わせ、協調性を持って仕事をしていきたい」と思いを新たにする。
 かけがえのない多くの命が突然奪われた「あの日」以来、サーフィンを封印し、生活の一部だった海から足が遠のいた。「最近サーフボードや道具を再び買いそろえた。仕事優先なので、やるかどうかは決まってないけど」と前置きしつつ、趣味の再開を考えている。


海水浴場の監視員募集/観光物産協会

 

 陸前高田市観光物産協会(金野靖彦会長)は、7月17日(土)から開設される高田松原海水浴場の監視員(パート)を募集している。
 監視員の業務は▽海水浴場の開設・閉設作業(天候、水温、気象情報の確認、海岸清掃、環境整備)▽陸上監視、巡回監視(事故や事件の防止活動)──など。
 募集人数は3〜4人。ハローワークウェブサイトで、詳細の求人情報を閲覧できる。
 問い合わせは、同協会(℡54・5011)まで。