三面椿の〝直系〟 育成環境充実へ 地元関係者がスクラム 末崎町内に管理拠点確保 (別写真あり)
令和3年6月24日付 1面
大船渡市末崎町字中森に搾油所を構える三面椿舎(山田康生代表)は、ヤブツバキでは国内最大・最古を誇る「大船渡の三面椿」の種から苗木を増やす活動に取り組んでいる。鉢植えの苗木として各地に活用できるまで成長し、軌道に乗りつつある中、今月からは、町内で使われなくなったビニールハウスを管理拠点として活用。同団体では、引き続き町内各団体の協力を得ながら、三面椿を生かした特産化や、ツバキを生かしたまちづくりの推進に期待を込める。
種から苗木へ 特産化に期待
ビニールハウスは同町上山地内の小高い斜面にあり、海を見渡せる位置にある。山田代表や三面椿が伸びる熊野神社の志田隆人宮司、同町の多世代交流館・居場所ハウスの鈴木軍平館長が20日に集まり、平成30年2月にまいた種から育て、約50㌢にまで伸びた苗木約80本を、より大きな鉢に移す作業を行った。
ビニールハウスは昨年まで、同町の志田和男さん(84)が花苗生産で使っていた。作業を見守った志田さんは「地元のために使ってくれるなら、いいこと」と語り、目を細めた。
苗木を植え替えた志田宮司は「いくらでも増えてもらい、大船渡の財産になってほしい」、鈴木館長は「末崎に伸びる木から種を取り育った苗木を末崎の中で育てることで、三面椿への関心やツバキを生かしたまちづくりがもっと広がれば」と話していた。
山田代表によると、種からの育成では特別な管理は必要としない半面、露地で育てるとシカによる被害が懸念されるという。これまで、苗木は世界の椿館・碁石内で林田勲元館長らに管理を依頼していたが手狭になり、新たな栽培拠点を確保する必要があった。
育てている種はすべて、三面椿から落下したもの。艶の良さや重さなどを見極め、年間100粒程度を苗木生産用にあててきた。生産地が分かる〝直系〟の苗木によって、各種交流事業やツバキを生かしたブランド化などを見据える。
樹高約10㍍、株元の幹回りは約8㍍の三面椿は、本殿の東西南3面に植栽された樹齢数百年のツバキ3本のうち、唯一残ったものとされる。樹齢1400年は日本最古ともいわれ、昭和44年に県が天然記念物に指定した。
東日本大震災時は三面椿を囲む石垣まで津波が押し寄せたが、浸水被害は免れた。以降、ツバキを生かした産業振興や地域活性化などのシンボル的な存在であり続ける。全世界に復興支援への感謝を発信する「東北復興宇宙ミッション2021」では、市の記念品として三面椿の種が採用され、今月4日に国際宇宙ステーション(ISS)に向けてロケットが打ち上げられた。
三面椿舎は東日本大震災以降、市の支援を受けながら、市花でもあるツバキを地域資源として生かし、椿油の製造や商品開発などを展開。末崎町に構える搾油所では、非加熱方式(コールドプレス)で椿油を製造し、加工商品も開発してきた。
市は「椿の里」を標ぼうする一方、同じく市花をツバキとする他自治体と比べて「独自の取り組みが足りない」といった指摘もある。来年3月には市内では2度目となる全国椿サミットの開催を控え、独自の地域資源活用策の発信にも注目が高まっている。
山田代表は「一般的なヤブツバキと見た目は変わらないが、三面椿からしぼった成分分析では、独自の傾向も明らかになりつつある。震災に耐えた木でもあり、地元の木を地元で育てることで市の財産としてストーリーも広がる。今後も地元の方の協力を得ながら進めたい」と話している。