「最低水準」今季も継続か 秋サケに厳しい見通し 県水産技術センターが予報発表
令和3年7月29日付 1面

震災前5カ年平均1割未満
県水産技術センターは、本年度の秋サケ回帰予報(9月~令和4年2月)を発表した。本年度の回帰数量は、東日本大震災前の5カ年平均(平成18~22年度)比で7%と、令和元年度以降の最低水準が継続すると予測。回帰時期の見込みは、11月下旬~12月上旬が中心となっている。秋サケの不漁は、漁協経営や水産加工業などにも深刻な影響を及ぼしている中、関係者は危機感をにじませる。
予測は過去の岩手県沿岸におけるサケ幼稚魚の分布密度調査の結果と、2年度の年齢別漁獲数量からサケ回帰数量を推定。
それによると、回帰数量は62万匹、1970㌧となり、2年度実績の59万匹、1734㌧は上回るものの、震災前の平均値である836万匹、2万6741㌧にはほど遠い予測となった。
年齢別に2年度と比較すると、4歳魚が減少して、3歳魚と5歳魚が増加するとみる。震災前の平均値との比較では、各年齢とも極めて少なくなる見通し。
回帰時期の推定は、3~5年前の卵収容実績と過去の旬別回帰率などから、11月下旬~12月上旬が中心と予測。河川遡上(そじょう)匹数は、昨年度と比較して12月上旬までは昨年を上回る半面、計画を達成するためには予測上限値でも不足する。
同センターでは「昨年と同様に採卵計画の達成が難しくなる可能性があることから、漁期前に種卵確保に向けた関係者の協力体制確認を」としている。
また、本年度の回帰の中心となる平成29年~令和元年の幼稚魚の分布密度は低水準にあり、この密度と漁獲の柱となる4歳魚の回帰数には相関関係があるという。そのうえで「しばらくの間は、低水準の回帰状況が予測される」とみる。
昨年度の大船渡市魚市場への水揚げ数量は同31・1%増の104・8㌧で、金額は同62・6%増の9988万円。前年超えを果たした一方、平成27年以降は1000㌧を下回る水揚げが続き、10億円台で推移していた震災前には遠く及ばない。
沿岸定置網漁業の主力となっている秋サケだが、不漁続きの影響は、気仙の各漁協でも経営悪化として表れている。サケだけでなく、サンマやスルメイカも低調が続き、気仙の基幹産業の一つである水産加工業は苦境にあえいでいる。
こうした中、気仙では今年、大船渡市と釜石市、気仙沼市の水産関係者らによる三陸サーモン養殖バレー協議会が発足。大船渡市内では盛川漁協がニジマスによる「サーモントラウト」の種苗育成を確立させつつある中、まずは同漁協による新たな生産施設で種苗育成に取り組み、海面養殖体制の構築やブランド化も見据える。
盛川漁協の佐藤由也組合長は「秋サケの厳しい落ち込みを、サーモントラウトでカバーしていくしかない。新たな養殖場の整備を進めており、来年はこれまでの6倍以上の売り上げを出していきたい」と話し、今後を見据える。
それでも、サケの河川遡上は依然として同漁協の大きな経営の柱であり、資源量回復は切実な思い。厳しい見通しに対しては「残念ながら、今季もその通りに推移するのではないか。対策としては親魚を1匹たりともむだにせず、採卵につなげるしかない。それでも厳しい時は、外からの卵移入も避けられないのでは」と語る。