田中選手の快挙 気仙でも祝福 大船渡ACに震災後支援 鈴木さん(盛町)が感謝のエール

▲ 東京五輪・陸上女子1500㍍で8位入賞を果たした田中選手を画面越しにたたえる鈴木さん

 6日夜に行われた東京五輪の陸上・女子1500㍍決勝で、田中希実選手(豊田自動織機TC)が同種目で日本勢初の8位入賞を果たした。田中選手は10年前の東日本大震災直後、両親とともに大船渡市の陸上クラブ・大船渡ACをはじめ、本県被災地の市民ランナーへ支援物資と手書きのメッセージを届け、励ましていた。両親と交流を続ける大船渡ACの鈴木眞紀さん(60)=盛町=はテレビ観戦し、力走にエールを送り、紡いだ縁を大切に感謝と応援を続けていくことを胸に誓った。

 

東京五輪・陸上女子1500㍍で入賞

 

 田中選手は今大会、予選(4分2秒33)、準決勝(3分59秒19)と立て続けに同種目の日本記録を更新。日本勢で初めて決勝進出を果たした。13人による決勝も中盤までメダル争いの集団に食い込む力走。終盤は先頭集団に引き離されたが、3分59秒95で8位に入り、鈴木さんは自宅で「頑張れ」「すごい」と画面越しに声援を送った。
 鈴木さんとも知り合いで、奥州市で中学校の陸上コーチなどを務める小野寺恵さん(53)は震災直後、被災で活動できなくなった沿岸部の市民ランナーの仲間のため、インターネットで練習用具などの寄付を募った。
 鈴木さんが所属する大船渡ACでも、自宅とともに用具も津波で流されてしまった仲間がいた。「全部流されて何もできない」と途方に暮れていた頃、小野寺さんの呼びかけを知った田中選手の両親から、大船渡にもシューズやTシャツなどの物資が段ボールで何度も届くようになった。
 物資が詰まった段ボール箱の側面には、当時小学6年生の田中選手と1年生だった妹の希空さんが「希望をもって前進して下さい」などと手書きした励ましのメッセージが添えられていた。鈴木さんら大船渡ACのメンバーはメッセージを見て「また走ろうと思えた」という。

平成28年10月、岩手国体で当時高校生の田中選手㊥に震災後の支援とメッセージに対する感謝を伝える鈴木さん㊧=北上市

 平成28年に本県で開かれた岩手国体では、高校2年生に成長していた田中選手が少年女子3000㍍の兵庫県代表として出場。審判員を務めていた鈴木さんは約5年越しに「あの時はありがとう」と感謝の言葉を伝え、支援のお礼に田中選手の名前を刺しゅうしたタオルをプレゼントした。
 田中選手親子からの激励も糧に震災後も立ち上がった大船渡ACは、現在も約30人の男女が県内外の大会に参加し、あっぴリレーマラソン優勝を重ねるなど活躍を続けている。
 鈴木さんは支援を受けた縁を深め、田中選手の大会前後などに母・千洋さんと頻繁にメールで田中選手の激励や、応援に対する感謝のメッセージのやり取りを続けている。鈴木さんは「10年たっても大船渡に思いを持ち、寄り添ってくれている」と人とのつながりや感謝を大切にする田中選手親子の姿勢に尊敬のまなざしを向ける。
 五輪で入賞を成し遂げた田中選手の快挙を画面越しに拍手でたたえた鈴木さん。「あの時応援してくれた子がこんなに成長して立派になり、感動している。ずっとつながりを持ち続け、いつか大船渡に来てもらい、スポーツの力で大船渡や子どもたちを元気にしてほしい」と願っている。