気仙オリジナルピザ発信へ 復興支援車両受け継ぐ伊藤さん 「挑戦応援の場」に一新(別写真あり)
令和3年9月2日付 7面
陸前高田市高田町で美容室「ひみつきち」を経営する伊藤英さん(38)は、同市のNPO法人が所有していたピザ窯を備えた車両「ぬーば号」を譲り受け、今月、「ひみつきっちん ぬーば号」と改称してピザの移動販売を始める。調理・販売は大船渡市赤崎町の佐々木絵里さん(25)が担当し、椿茶の粉末や、ワカメからできた塩を練り込み、〝気仙のオリジナルピザ〟として発信する。もともと東日本大震災後の復興支援を目的に贈られた車両は、震災から10年超を経て、被災地陸前高田の住民の手で、地域の若者の新たな挑戦を応援する場として生まれ変わる。
伊藤さんと佐々木さんは8月31日、販売場所として許可を得た大船渡市大船渡町の㈱バンザイ・ファクトリーの敷地内で、試作と試食を行った。マルゲリータ、シーフード、季節の野菜など、販売を予定する複数の種類のピザを車内に備えた約450度の窯に入れ、数分で焼き上がり、香ばしさが広がった。
ぬーば号はもともと、東日本大震災後に東京都の企業が被災地支援を目的に購入し、さいたま市のボランティア組織「ぬーばプロジェクト」に寄贈。同プロジェクトは「ピザで被災地の子どもたちに笑顔を届けたい」と被災地訪問活動を展開し、陸前高田市の仮設住宅や保育施設などでもピザを振る舞った。一昨年3月からは同市広田町でまちづくりなどに取り組むNPO法人SET(三井俊介理事長)が所有していた。
車内に業界で著名な増田煉瓦(れんが)㈱(群馬県前橋市)のオリジナルピザ窯を備え、7月に同社から派遣を受け、佐々木さんは窯のメンテナンスと生地作りのレクチャーを丸2日間受け、その後も試作を繰り返している。三陸・大船渡まつりが開かれた8月7日には練習として約40枚を無料で振る舞い、市民からも好評を得た。
レクチャーを通じ、陸前高田市と大船渡市の市花のツバキにちなみ、椿茶の粉末やワカメからできた「アルガソルト」を使ったオリジナル生地の開発にも成功。生地は独特の風味があり、色も緑がかっているのが特徴だ。
車両の外装も伊藤さんと親交のあったアーティストに依頼し、ツバキをデザインした。
販売開始は今月15日(水)に陸前高田市内を予定。当面は土・日曜日、祝日を基本に、同市米崎町の産直はまなす陸前高田とバンザイ・ファクトリーの敷地内で車両販売する。
同市のカフェでの勤務や福祉施設の栄養士を務めた経験があり、伊藤さんの美容室を利用していた縁で挑戦を決めた佐々木さんは、将来カフェを営むことを目標にしている。ツバキ、ワカメのほか、住田町の「ありすぽーく」や陸前高田市の「米崎りんご」などを使ったピザも検討している。「できるだけ地元の食材を使い、地産地消のオリジナルピザを作っていきたい」と熱心に試作を繰り返す。
震災から10年余り。自身も被災を経験した伊藤さんは現在、幼い子ども2人の父でもあり、「子ども、孫が大きくなった時に『好きだ』と言ってもらえるまちにしたい」と、高田町の浸水地をツバキで赤色に染める「レッドカーペット・プロジェクト」の植樹活動など、まちづくりに積極的に関わっている。
伊藤さんは「震災から10年がたち、いつまでも復興支援ではない。もともとの所有者の思いも受け、(飲食業を志す人などの)若い人のチャレンジを応援できる〝起業応援車両〟にしていきたい」と見据える。