東日本大震災10年/復興の地で成長ともに インターンシップが定着 復興庁の事業終了後も継続 気仙
令和3年9月11日付 7面
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東日本大震災で被害を受けた岩手、宮城、福島各県の企業が抱える経営課題の解決に向け、令和2年度まで行われた復興庁による「復興・創生インターンシップ事業」。この取り組みの成果を継続・発展させていこうと、気仙の事業所では本年度も、県外の大学生らを受け入れるインターンシップが行われている。全壊被害から立ち上がった水産加工業に、小学生時代に被災した大学生が飛び込み、地域貢献を模索する活動も。経営者や従業員、学生がそれぞれ刺激を得ながら、さらなる成長を見据える。
学生と企業 双方に〝刺激〟
復興庁は平成25年度から「復興支援」としてインターンを実施。28年度から「復興・創生」となり、翌年度以降は就業体験にとどまらず、被災企業が抱える経営課題解決に取り組む「実践型」のプログラムが展開されてきた。
気仙地区はNPO法人wiz(中野圭代表理事、大船渡市)が担当し、約1カ月間にわたり水産加工や宿泊・観光、情報通信、まちづくりなどの企業が受け入れ先となった。本年度は同法人が主催となり、学生と企業との調整などを担っている。
現在、大船渡町のサンコー食品㈱(小濱健代表取締役)では、神奈川大学経営学部3年の増田美空さん(21)と、立教大学観光学部3年の小國瑞奈さん(20)がインターン生として活動。同社は地元内外で水揚げされるイカの加工品製造などを展開し、2人はレシピ開発などを主な〝仕事〟としている。
神奈川県出身の増田さんは、学内で開催されたwizの活動に関する説明を聞く機会があり、岩手での活動に関心を抱いた。将来は食品分野に就職志望があったことから、同社を志願した。
先月19日以降、自宅で端材扱いのイカを活用したレシピ開発や動画制作に取り組んだ。毎日15分程度、小濱代表取締役とリモートで打ち合わせを行い、進ちょくを確認。レシピは同社のSNSなどで発信してきた。
今月7日に大船渡入りし、同社での〝勤務〟が始まった。工場内での製造業務などを体験する予定。「従業員の皆さんの思いだったり、工場内のこだわりをうまく発信したい」と語る。
大槌町出身の小國さんは小学4年生の時、津波で自宅が被災。約5年間、同町の仮設住宅で過ごした。盛岡市内の高校に進み、大学進学で岩手を離れたが「沿岸の企業で水産業の振興に貢献したい」と思い続けてきた。
8月下旬にいったん同社工場内での業務を経験し、約1週間のテレワークを経て、再び同社に戻ってきた。増田さんと同様にレシピ開発を担うが、学校給食にイカの調理メニューを取り入れてもらうよう提案活動にも力を入れる。
小國さんは「魚離れを止め、子どもたちが好きになれば大人も好きになる。給食に出れば、献立でイカの魅力を伝えてもらったり、思い出にもなる。直接的にはつながりにくいかもしれないが、水産業の担い手づくりにも貢献できれば」と話す。
下船渡漁港のそばに構える同社は10年6カ月前、津波が2階まで押し寄せ、工場が全壊。従業員らががれきや散乱した原料の片付けを行い、5カ月後に工場を再開させた。
2人は同社として、10期目のインターン生。9期目までで計14人が経験を積んだ。小濱代表取締役は「最初は『だまされてもいいか』という感じだった。でも、学生がまったく分からないところから積み重ねていく。その姿勢に学びが多かった」と振り返る。
期間中、全国展開する食品加工企業との商談に臨むほか、増田さんらが考案したメニューは製品パッケージにQRコードを添え、同社ホームページで閲覧できる体制も目指す。これまでも、学生に体験機会を提供するだけでなく、学生のアイデアや努力をパッケージの改良などに生かしてきた。
今期は新型コロナウイルスの影響で、社内活動ばかりはさせないなど、調整や制限も多い。それでも、同社にはメリットは多い。インターンを終えたあとも、地元小学生らの見学時にリモートで説明役を担うほか、学生同士のつながりも生まれる。
小濱代表取締役は「何十年も働いている従業員にとっても、大学生がやりがいを持ちながら取り組む姿勢から、自信を得ることができる。これからも企業、従業員、学生が〝ウイン、ウイン、ウイン〟の関係になれば」と、期待を込める。