住民同士のつながり強固に 岩手大学の船戸特任助教 県営みどり町アパートで新事業(別写真あり)
令和3年9月22日付 3面

岩手大学研究支援・産学連携センター復興・地域創生ユニットは本年度、災害公営住宅入居者の地域活動への参加促進や住民同士のつながりを生み出すことを目的とする、「コミタス事業」に取り組んでいる。初年度は、大船渡市盛町の県営みどり町アパート自治会(飯島真由美会長)がモデル事業として県内外で初めて実施。新型コロナウイルスの影響もあって、住民同士の交流機会も減少する中、同事業を通じて将来の自治会の担い手育成などにつなげる。
コミタス事業は、東日本大震災直後の平成23年から被災者のコミュニティー形成や災害公営住宅の自治会設立に携わってきた同ユニットの船戸義和特任助教(43)が提唱するコミュニティーづくりの手法。「小さな仕事(タスク)を通じて、自治会役員以外の住民に地域活動(コミュニティー)への参加機会をつくる」という意味から、「コミタス」と名付けた。
内容は、災害公営住宅内外から住民や地域の役に立つタスクを募り、その実行者も募集。住宅敷地内の清掃活動や周辺地域の環境整備など、決められたタスクを実行した人には、活動に応じた少額の報酬(1時間以内で100~500円程度)が支払われると同時に、報酬と同額が自治会に積み立てられ、アパート運営のさまざまな活動費に充てる仕組み。
タスク実行には、活動前の申し出と終了後の報告が必要で、好きな時間に何度でも実行可能。個人で取り組むこともできるが、2人以上のグループで行うと報酬が100円アップする。本年度は、同大学が用意した予算から報酬が支払われる。
初年度は、船戸助教が支援を続けてきた県営みどり町アパート自治会で事業を実施。20日には事業の一環として、同アパート前のそばを通る歩道の植樹升にアジサイの苗を植栽する環境整備活動を行った。
活動には、船戸助教や同大学の学生、アパートの住民など約20人が参加。植樹升の土を掘り起こして培養土と苗を入れ、丁寧に土をかぶせて水をまき、活動の証しとなる立て札を設置した。
母親と一緒に参加した新沼祐樹君(盛小3年)は「みんなで作業できて楽しかった。どんな色の花が咲くのか楽しみです」と笑顔を見せた。
また、作業後は、水やりなどの管理についての話し合いも行われた。船戸助教は「植物は育成に時間と手間がかかるため、水やりや草取りを通じた交流が生まれやすい。そこに子どもや高齢者も参加するようになれば、住民同士の見守りにもなる。1回で終わりではなく、継続的な活動を行っていくことが大切」と話す。
同市と同ユニットが、一昨年から昨年にかけて実施した市内の災害公営住宅入居者に対するアンケート結果によると、「震災前に比べて、近所や地域の人と関わる機会が減った」と答えた割合が4割を超え、住民同士の結びつきが薄れつつある現状が浮かび上がった。
同アパートでは、飯島会長(53)をはじめとした自治会役員らが中心となり、環境、治安維持と住民相互のつながりを深める取り組みを続けているが、家賃などの関係で自治会運営の後継者となる若い世代が相次いで退去した時期もあり、将来の担い手確保に頭を悩ませる。
飯島会長は「同じ階の住民の顔は分かるが、その上下階を知らない住民も多い。この事業を通じて、役員主体の活動だけでなく、住民自ら声を掛け合って活動に取り組む姿勢が広がっていけば」と期待を込めていた。