地域の昔話 紙芝居に おはなしころりん 『八幡のカッパ』が完成(別写真あり)
令和3年9月24日付 7面
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大船渡市のNPO法人おはなしころりん(江刺由紀子理事長)による手作り紙芝居『八幡のカッパ〜いかわの話しっこ〜』が完成し、23日に物語のもととなる昔話を紹介した猪川町の千葉芳子さん(91)宅で初めて披露された。紙芝居は、千葉さんが紹介したカッパの話二つを軸に、昔の生活や今も続く風習にも触れられる内容に仕上げており、千葉さんは「昔の話がこうしてよみがえるなんてうれしい」と大喜び。同法人では今後、各所でこの紙芝居を披露し、地域の昔話を伝承していく。
千葉さん(猪川町)宅で初披露
出来上がった紙芝居を笑顔で見つめる千葉さん
おはなしころりんは、気仙に伝わる民話の継承を図ろうと、10年以上にわたって紙芝居を制作。市民らの協力を得ながら地域の昔話を掘り起こし、紙芝居として次世代に伝えようと取り組んでいる。
通算14作目となる『八幡のカッパ』は、昨年4月、江刺理事長(59)がケセン語の研究者として知られる同市盛町の山浦玄嗣さんから、猪川に伝わる昔話を教わったのが始まり。山浦さんからこの昔話に詳しい千葉さんを紹介され、同月末に江刺理事長ところりんスタッフの熊谷由紀子さん(61)が千葉さんを取材し、実際に話を聞いた。
三陸町越喜来出身の千葉さんは、六十数年前に猪川町下中井の千葉家に嫁いだ。約400年の歴史を持つ千葉家は「八幡」と呼ばれ、かつては庄屋を務めていたという。
今回、紙芝居となったカッパの昔話は、嫁いだ当時に家の人々から伝え聞いたもの。地元の堰口地蔵尊と八幡の馬屋にまつわる二つの話を、江刺理事長が紙芝居用の物語にまとめ、熊谷さんが作画を手がけた。
紙芝居は、取材から1年5カ月を経た今月中旬に完成。大型サイズ(縦43㌢、横62㌢)の12枚で構成しており、23日には江刺理事長と熊谷さんが千葉さんの自宅を訪ね、できたての『八幡のカッパ』を初披露した。
物語に出てくるカッパは、人知れず農作業を手伝ったり、ちょっとしたいたずらをするなど、地域に不思議な出来事をもたらす存在。このうち、八幡の馬屋に入ったカッパの話では、空腹のカッパにおいしいものを食べさせようと、八幡の旦那様の提案でいまも郷土料理として伝わる「かまもち」を盛川に放る場面が登場する。
千葉家では今も、毎年8月7日には7個のかまもちを川に放る風習が残るという。千葉さんは、「かまもちを川に投げるときは、家族や地域の人々が水害に遭わないよう、みんなを救ってくださいと願っている」と思いを語る。紙芝居では、現在の中井大橋付近で千葉さんをイメージした高齢女性と子どもたちが一緒にかまもちを川に投げ込む絵で締めくくられている。
出来上がった紙芝居を見て、千葉さんは「八幡が永久に残るようなものにしてくれてありがたい。立派な紙芝居に仕上がっていて涙が出てくる。一生の宝物だと思う」と感激の表情を見せた。
江刺理事長は「昔話がこの地域に生きていることを伝えたい。千葉さんの気持ちを大事にしようと制作し、中にはお聞きした言葉をそのまま使った場面もある。今後は、市内の小学校などで披露していきたい」と話している。