御神木の「魔鏡」奉納 今泉天満宮再建に合わせ 京都市の鏡師・山本さんが製作(別写真あり)

▲ 今泉天満宮に魔鏡を奉納した山本さん㊨

 京都府京都市の鏡師・山本晃久さん(45)は24日、陸前高田市気仙町の今泉天満宮(荒木眞幸宮司)に、光を当てると同天満宮の御神木「天神大杉」の文様を投影する青銅の鏡「魔鏡」を奉納した。東日本大震災津波で枯死した御神木が新たな姿となってよみがえり、今年6月に再建をかなえた同天満宮に地域住民の笑顔が集うことを願った。

 

 山本さんは、全国の神社や寺に納める神鏡を製作する山本合金製作所(京都市下京区)の5代目で、魔鏡も製作している。
 魔鏡は、表面は普通の鏡だが、反射光で裏側に鋳造されている経文や仏像などが映し出されるというもの。魔鏡を手作りする技術が残っていることは世界的にも珍しく、山本さんは平成26年に安倍晋三前首相からローマ法王に献上された魔鏡の製作にも携わった。
 同天満宮へ魔鏡を奉納するプロジェクトは、雑誌「婦人画報」が世界に誇る日本の手工芸を守ろうと企画したもの。山本さんは、震災後の東北の被災地を応援する同誌から話を受け、思いに賛同し、クラウドファンディングで得られた資金をもとに魔鏡を製作した。
 プロジェクトが始まった26年から約1年かけて魔鏡が完成。直径一尺一寸(約33㌢)の鏡に、枯死する前の大杉の写真をもとにデザイン化した御神木の全景と「天神大杉」の文字を収めた。
 鏡面をむらなく研磨するには、対象が大きいほど複雑化し、高い技術が求められる。山本さんによると、今回奉納した魔鏡は「手作りの魔鏡としては世界最大」といい、自身にとって新たな挑戦の機会になったという。
 山本さんは「震災から10年がたち、これからもまちの様子は変わっていくと思う。震災を忘れないように、また、この天満宮に多くの人たちが集まり、心のよりどころとなってほしい」と願った。
 同天満宮は大津波で全壊。樹齢800年とされる御神木の大杉は残ったが枯死し、津波遡上(そじょう)高の根元から約4・5㍍までが28年に伐採された。
 新たな社殿は今年6月に完成し、7月には遷座祭を挙行。これに合わせ、山本さんが保管してきた魔鏡も奉納されることになった。
 24日は、同天満宮で荒木宮司(78)立ち会いのもと、禰宜(ねぎ)の榊原裕一さん(38)が山本さんから魔鏡を受け取った。
 荒木宮司は「大杉が枯死したときは悲しい気持ちになったが、こうして魔鏡としてよみがえらせてもらいうれしく、大変ありがたい。世界で唯一のすばらしい鏡に、たくさんの地域の笑顔が映るよう願いたい」と話していた。


新しい社殿で初の例祭挙行

社殿再建後初の例祭が執り行われた

 今泉天満宮の例祭は25日、現地で行われた。震災後再建された社殿での挙行は今回が初で、参列した地域住民らが地域の安寧を祈った。
 神社関係者や総代、氏子ら20人余りが参列。榊原禰宜が祭主を、県神社庁気仙支部の奥山行正副支部長(支部長代理)が献幣使(けんぺいし)をそれぞれ務めた。
 神事では、祝詞奏上や玉串奉てんなどが行われ、参拝者らが穏やかな毎日を過ごせるよう祈った。
 同天満宮は、震災で社殿や本殿が全壊となったあと、仮宮を建てて年に一度の例祭を継続。本設の建物で行う正式な例祭は11年ぶりとなった。
 神事のあと、荒木宮司は社殿を施工した社寺工舎(遠野市)の代表・菊池恭二さんと、魔鏡製作者の山本さんに対し感謝状を贈呈。「まだまだやることはたくさんあるが、きょうは(榊原さんと共に)精いっぱいのお勤めをさせていただいた。今後も天下泰平を祈りたい」と話していた。