岸田首相が気仙入り  復興祈念公園で黙とう 水産関係者と「車座対話」も(別写真あり)

▲ ホタテ養殖を営む佐々木淳さん(写真奥中央)の説明に耳を傾ける岸田首相㊨(代表撮影)

 岸田文雄首相は16日、気仙両市を訪問した。首相就任後初めて東日本大震災被災地を訪れ、陸前高田市の高田松原津波復興祈念公園で献花、黙とう。大船渡市魚市場では水産関係者らとの「車座対話」に臨み、各現場が抱える課題や不安に耳を傾けた。

 

国営追悼・祈念施設の「献花の場」で花を手向ける岸田首相

 被災地訪問は復興状況の視察などが目的。岸田首相は同日午前10時45分ごろ、同公園に到着。西銘恒三郎復興大臣らが同行し、戸羽太市長、東北地方整備局の稲田雅裕局長らが出迎えた。
 国営追悼・祈念施設の「献花の場」で花を手向け、広田湾に向かって黙とう。津波犠牲者に追悼の祈りをささげた。
 その後、園内の震災津波伝承館で、戸羽太市長、達増拓也知事が復興状況をそれぞれ説明。
 戸羽市長は今後の課題として被災跡地の利活用を取り上げ、「自治体と復興庁が一緒になり、津波を受けた土地への企業誘致などを進めることが地方創生、創造的復興につながる。ぜひその点を検討していただきたい」と要望した。
 一方、達増知事は「生活再建、心のケア、コミュニティー形成の支援継続が必要で、復興推進のための予算確保が大事となる」と述べたうえ、新型コロナウイルス感染症対策や主要魚種の不漁に苦しむ水産業への支援、国際リニアコライダー(ILC)誘致実現に向けた取り組み強化も求めた。
 祈念公園をたつ前には、待ち構えていた市民らと交流する場面も。気仙町の佐々木文江さん(51)は「直接会えるとは思いもしなかった。コロナ対策はもちろん、地域経済の活性化につながる政策に期待したい」と話した。
 大船渡市魚市場では、戸田公明市長や三浦隆市議会議長、大船渡魚市場㈱の千葉隆美社長らが出迎えた。窓越しに大船渡湾が広がる3階多目的ホールに移動し、8日の国会所信表明演説でも掲げた「車座対話」に臨んだ。
 首相を囲んだのは、サンマ漁船や水産加工業を経営する鎌田水産㈱の鎌田仁社長(48)、三陸町綾里でホタテ養殖を営む県漁業士会会長の佐々木淳さん(50)とイザベルさん(41)夫妻、大船渡魚市場職員の及川将さん(36)、湾内でカキ養殖漁業を手掛ける県漁業士会事務局の大和田康彦さん(53)。さらに戸田市長と達増知事、進行役として西銘復興大臣も入った。
 冒頭、岸田首相は「サンマやサケの不漁、コロナ禍で何重にも苦労が重なっているのでは。思っていること、苦労していることを聞かせてほしい」とあいさつ。水産関係者らの発言に耳を傾け、その後、岸田首相が実情や今後の展望などについて問いかけた。
 鎌田社長は人口減少対策として「未来を考えた時に、ILCが実現すれば、若い人たちが残るのでは」と発言。コロナ禍で外国人研修生が集まらない実情にも触れ「いろいろな業種で影響が出ていると思う。ある程度収束した国から入国許可を出した方がいいのでは」と述べたほか、漁船乗組員の高齢化にも言及した。
 佐々木さんは「新規就業者をどう集めるかが喫緊の課題。地域一丸となって育てていかなければならない」と力を込め、国などとの連携強化も強調。イザベルさんは、落ち込んだ観光客の回復などに言及した。
 及川さんは新魚市場施設の稼働以降、情報システム導入で計量や入札の時間短縮、効率化につながった点を説明。さらなる広がりに期待を込めた。
 大和田さんは、カキむき作業を担う人手確保の苦労に加え「震災の時に建造した船が、将来的に更新できるかが不安」と明かした。戸田市長は、水産業の発展につながる施策の推進を求めた。
 岸田首相は盛んにメモを取るとともに、時折「なるほどね」と口にしながらうなずく姿も。最後に「コロナ禍で苦労している皆さんに対して、大型の経済対策を考えている。不安定な収入への支援と合わせ、マルチな漁業に対応できるような応援や、養殖業が成長産業となるような支援を盛り込みたい」と意欲を示した。
 終了後、キャッセン大船渡内の「ガガニコ食堂」で昼食。併設的に整備されている「三陸おさかなファクトリー」の関係者らと交流を深めたほか、詰めかけた支持者や地域住民らに「国難を乗り越え、輝かしい日本をつくっていこう」などと語りかけた。