文化財再生の10年発信 博物館防災国際委のシンポジウム 震災後の軌跡と展望テーマに
令和3年11月7日付 7面

世界の博物館関係者が参加する「ICOM(アイコム、国際博物館会議)─DRMC」の2021年次大会関連事業が6日、陸前高田市高田町の市コミュニティホールで開かれた。東日本大震災で被災した東北3県の博物館や文化財の再生に向けた歩みを振り返るシンポジウムがあり、大規模災害からの復興に向け、文化施設が担うべき役割を国内外に発信した。
ICOMは現在32の国際委員会があり、「DRMC」は一昨年のICOM京都大会で新たに設立された博物館防災国際委員会。文化遺産の災害対応に関する組織間連携の促進、博物館防災に関する研修、専門的なネットワーク構築などを展開している。
昨年、DRMCとしては初めての年次大会・総会をメキシコで開催する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止。今回は震災10年の節目を踏まえ、陸前高田市を会場の一つとした。
シンポジウムのテーマは「市民と博物館がまもり、つなぐふるさとの宝―東日本大震災後10年目における博物館活動の再生と創造―」。オンラインで参加可能なハイブリッド式で行われ、コミュニティホールには市民らも参加した。
冒頭のアトラクションでは、気仙小5、6年生17人が伝統の気仙町けんか七夕太鼓を披露。開会式で主催者の1組織である同市を代表し、戸羽太市長が「国内での災害はいつ、どこで起きるか分からない状況だ。地域の宝物である文化財をどうつないでいけるか考えるシンポジウムとなることを願っている」と述べた。
事例報告では、市立博物館の熊谷賢主任学芸員に加え、福島県立博物館、国立文化財機構文化財防災センター、国連防災機関(UNDRR)駐日事務所の4人が登壇(1人はリモート参加)。被災3県の博物館の被害状況や文化財保全などの活動をそれぞれ報告した。
このうち、熊谷主任学芸員は本県沿岸で最も多くの資料が被災した同市の状況と再生に向けた取り組みを紹介。ライフラインが寸断された中での過酷な資料救出作業、安定化処理の工程を解説し、「被災した資料の再生はまだ終わっておらず課題は山積している。それでも諦めることなく陸前高田の宝物をつないでいく努力を続けていく」と締めた。
パネルディスカッションは、事例報告者のほか、東北3県の文化施設などに勤務する計8人がパネリストを務めた。
パネリストの岩手県立博物館主任専門学芸員・丸山浩治さんは、被災資料の修復作業を振り返り、「資料の性質、状態がさまざまで困難を極めた。はじめから資料データを共有できていればさらにスムーズな対応ができたと思う。近隣地域、県域などで連携するネットワークの構築が大切だ」と訴えた。
今後10年の博物館の展開に関して、富岡町震災伝承施設とみおかアーカイブ・ミュージアム(福島県)副館長の三瓶秀文さんは「博物館は、文化財を通してその地域や人々の生活がどう成り立ってきたのかを見てもらう場。地域のことを知るワークショップなどの博物館活動は、地域づくりにもつながりうる。そうしたソフト事業にも力を入れたい」と見据えた。