架空・水増し請求1.4億円超か 簡易水道事業の委託巡り 市議会臨時会で提訴議案可決 市、元職員と事業者に賠償求める
令和3年11月27日付 1面

大船渡市の簡易水道事業を巡り、平成31年1月に収賄容疑で元市職員が逮捕されたことを受け、市が同事業の委託業務を調査した結果、平成22~30年度にこの元職員が首謀・共謀し、市内3事業者との契約計557件で総額約1億4200万円に及ぶ架空・水増し請求が見込まれることが分かった。元市職員と、各事業者に損害賠償を求める提訴議案は、同日の市議会臨時会で可決。1業者とは認めた分を返還したことなどから和解を進める一方、残り2業者は不法行為を否認し、請求に応じていない。市は返還を求めるほか、「主張がかみ合わない。司法で判断を」としている。
市長「全容解明が今の責任」
平成31年1月、市が発注した簡易水道事業の業務委託で便宜を図った見返りに約30万円を受け取ったとして、当時市簡易水道事業所技監(課長級)だった元市職員=赤崎町=が収賄容疑で、建設会社代表取締役=猪川町=が贈賄容疑で逮捕された。ともに執行猶予付きの有罪判決が出た。
臨時会での当局説明によると、事件を踏まえ、第三者委員会から提出された報告書や市議会全員協議会で架空発注の疑いが指摘された。市は簡易水道事業所が創設された平成22年度から逮捕された30年度までの全委託業務で、架空発注などの有無を調べた。
調査対象は、代表取締役が逮捕された建設会社(A社)と、個人事業者であるB氏=立根町=とC氏=三陸町綾里、代表者死亡により廃業したD社の計4事業者。簡易水道事業所発注のうち、災害復旧等を除くほぼすべての委託業務にあたる612業務が対象で、4事業者すべてで架空・水増しの疑いを確認した。
その後、D社を除く3事業者による561業務を調査し、557業務で疑義が明らかになり、架空・水増しによる市の被害額は1億4200万円に及ぶ見込みとなった。D社分も含めれば、実際の被害額はさらに膨らむ可能性がある。
議案説明によると、A社と元職員への損害賠償請求は222件で計4887万円。B氏と元職員には185件で計4969万円、さらに元職員のみに2444万円を請求する。
昨年、3事業者に委託業務に関する確認調査を行ったところ、A社は書類を廃棄し、記憶も定かでない内容の報告があり、B氏は確認書類を一部のみ提出した。A社、B氏とも不法行為を否認しているという。
一方、C氏は、元職員主導の不正発注に加え、金額の一部を元職員に手渡し、残金を手つかずで保管していた──との内容で経緯報告書を出した。C氏と元職員に関する被害想定額は約4300万円で、今年に入り、C氏に対して不正交付された委託料の返還請求を行ったところ、1274万円の納付があり、さらに元職員に直接手渡した以外の額として587万円が支払われた。
このため、C氏が絡む案件は、元職員に請求を限定。臨時会には、市が元職員に対して行う民事または刑事の法的手続きに証人として協力することを約束する内容を盛り込み、C氏と和解を進める議案も提出された。
議決の結果、損害賠償議案3件はいずれも全員賛成、和解議案は賛成多数でそれぞれ可決された。提訴時期は年内をめどとする。
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臨時記者会見に臨む戸田市長㊨ら
臨時会終了後、市は臨時記者会見を行い、これまでの調査経緯を改めて説明し、被害額の返還などを進める方針を強調した。
記者から責任を問われた戸田公明市長は「全容をつまびらかにすること、それが今の責任。返還だけでなく、市職員の心構えや不備が起こった場合の組織の対応の仕方など、もっとレベルアップすることを目指していきたい。困難な事案に市をあげて対応することによって、職員の意識改革をしていきたい」と述べた。
調査が始まった昨年以降、市は顧問弁護士も含め、元職員と直接接触していない。理由について市側は「顧問弁護士と打ち合わせを重ねて進めてきたものだが、その詳細は控えたい」と説明した。
逮捕されていない両氏は、個人事業主として市の水道や下水道における工事業者指定を受けていることから、各基準に照らし合わせながら今後の対応を決める方針。「なぜ長期間にわたり、市は気づかなかったのか」の質問に対しては、裁判の内容に影響するとして明確な回答はなかった。
A社とB氏の具体的な否認内容も、詳細を避けた。江刺雄輝総務部長は「市が主張する内容と、相手方の主張内容がかみ合わない。それを裁判所に判断していただきたい」と述べた。