道具類の価値裏付けへ 中村准教授(東北工大)が気仙大工左官伝承館の所蔵品調査 まずカンナなどリスト化 (別写真あり)
令和3年12月29日付 7面

宮城県仙台市にある東北工業大学建築学部建築学科の中村琢巳准教授(44)はこのほど、陸前高田市小友町の気仙大工左官伝承館が所蔵する大工道具の調査に着手した。道具のリストを作成したうえ、学術的に価値付けができるかどうか調べていく方針。同市教育委員会も、気仙町今泉地区で復旧作業が進められている県指定有形文化財「旧吉田家住宅主屋」と併せ、「気仙大工左官の技術や歴史的意義を、一体的に発信していければ」と見据えている。
同館は平成4年のオープンに際し、気仙大工と左官の道具類を市内などから収集。館内の土蔵と展示室に保管・展示している。カンナ類だけで1000丁以上あり、ミノやオノ、チョウナ、ノコギリ、コテなどと合わせると、収蔵品の数は2000点を超えるとみられる。
市教委は、将来的にこれらの道具類の文化財指定も視野に入れ、「学術的な価値の裏付けができないか」と、公益財団法人・竹中大工道具館の元研究員でもあった中村准教授に相談。今月、中村准教授が学生らと道具の一覧表作成を開始し、今後どのように研究を進めていくかなど方針を探っていく。
中村准教授は、「ざっと見ただけでも、道具の点数のみならず種類も多いことが分かる」と言う。
気仙大工は家や神社仏閣のほか、建具や彫刻もこなしたことから、「面取りなどをするカンナのほか、細かい仕上げ作業をするためのものもあり、丁寧な彫刻にこだわった気仙大工の特徴として裏付けられるかもしれない。木の伐採やせん定など、山仕事まで自分たちで手がけていたとみられる道具類もそろっており、大小、多岐にわたる気仙大工の仕事ぶりがうかがえる資料とも言えるのでは」とする。
また、カンナなどに鍛冶職人の銘が刻まれていることは普通だが、使っていた大工の名前、居住地、生年などが道具と一緒に記録されている点で、同館の収蔵品は全国的にも希少だといい、同准教授は「明治、大正、昭和と、生まれた年代によって道具に違いがあるのかなど、さまざまな角度から調べることができる。地域の歴史を知り、物語れるような目録になるのではないか」と語る。
同館によると、令和2年に亡くなった郷土史家で、気仙大工の研究家としても知られた平山憲治さん(大船渡市)も、かつて著書の中で「千丁もの鉋を有している自治体、資料館、博物館はほかにない」とその貴重さを指摘し、もっと有効に展示・活用する方法がないか模索していたという。
同館は「貴重だとは分かっていても、どのように扱えばいいか、なかなか方針を決められなかった。これを機に価値がさらに詳しく分かれば、もっと皆さんに見ていただけるようになるのでは」とする。
市教委は「気仙大工左官の技術を生かして復旧が進められている『旧吉田家住宅主屋』と併せ、市立博物館や気仙大工左官伝承館と連携した発信を行っていきたい。また、道具を通じて若い方にも大工、左官に興味を持ってもらい、伝統の技を学びたいという若者や女性、外国人などが出てくるきっかけにもなれば」と調査の進展に期待を寄せる。