インタビュー2022/挑む気仙人② 「ドメーヌ ミカヅキ」代表 及川恭平さん(28)

ワインで地域盛り上げる

 

 ──陸前高田市小友町出身。大船渡高校を卒業後、関東の大学で食に関わる生化学を学び、ワイン専門商社就職や、フランスでの修行を経て令和2年にUターン。個人事業のワイナリー「Domaine Mikazuki(ドメーヌ ミカヅキ)」を創業した。地元で起業した理由は。
 及川 高校2年生で東日本大震災を経験し、大津波で多くのまちの産業が失われたのを目の当たりにしたことや、多方面から物資支援を受けたことなどから、「陸前高田のまちづくりに関わりたい」と思うようになった。ハード面の整備が進んだあとの未来のまちを考え、ソフト面で地元の復興を担いたいと思い、新たな産業を興すことを目標に定めた。
 ──なぜワイナリーなのか。
 及川 高校生なりに将来の事業について考えたときに、農業に興味があるというところから「食に関するものが地域との親和性も高いのでは」と考え、醸造や酵母などについて学べる大学に進んだ。そこでワインと出合い、陸前高田の気候が果樹栽培に適していることも分かり、ワイナリー創業という目標が生まれた。
 ──大学卒業後に行ったことは。
 及川 まずは商品の販売ルートや経営のことを勉強しようと進路を決めた。大手ビール会社関連の関東のワイン専門商社や、白ワインの生産地や観光地で知られるフランス・アルザスのワイナリーで仕事ができたことで、「お客さまがどんなワインを求めているのか」を知り、目指すビジョンまでの工程を〝逆算〟しながら行動できるようになったと思う。
 ──Uターン後は、親戚のリンゴ園を借り受けた。ほかにも使われなくなっていた畑を土地所有者と交渉して借り、自力で開墾作業を行った。これまでの苦労と進ちょくは。
 及川 耕作放棄地化していた土地を整備したり、もともと植えられていたリンゴの木の品種を調べたりする作業が大変だった。
 ただ、地元に戻ってきてすぐに作業できる土地や人のつてがあったのは恵まれていた。新規就農する人にとって、土地や道具の確保は最初にぶつかる関門。畑を貸していただいた方や、重機の貸し出しなどで協力してくれる方々にはとても感謝している。
 現在は、小友町と米崎町で合わせて1㌶以上の畑を管理し、このうち約20㌃でリンゴを、約50㌃でブドウをそれぞれ育てている。今後も規模を拡大していくため、土地の確保に努めているところ。
 今年は、市外の事業所に醸造を委託し、昨年育ったリンゴを使ったシードルの生産にも着手する。新規就農者向けの補助金も活用しながら、順調に前へ進めている。
 ──人口流出や少子高齢化に伴う1次産業の担い手不足が顕著となっていることなど、地域課題に対する思いは。
 及川 地域内で担い手を確保することは現実的に厳しい。自分のように、地元出身者で、Uターンして起業することを前提に進路を決めるという人はとてもまれだと思う。
 そのため、外から人を呼び込み、新しい事業に取り組みやすい環境や、外貨をかせぐ仕組みをまち全体でつくっていくことが大事だと思う。陸前高田市の関係人口を増やすことが必要で、行政にもそのことを理解し、後押ししてもらいたい。
 ──将来的には、市内に独自の醸造施設を設けたい考え。ワインを楽しめるレストランと宿泊サービスを一体化した施設の整備など、6次産業化への歩みを進めると聞いた。今後の展望は。
 及川 個人事業とは別に、自分は地域商社・陸前高田企画㈱で取締役を務めている。陸前高田と姉妹都市関係を結ぶ米国・クレセントシティをはじめ、外国と特産品の輸出入を行うことなどを事業にしている会社で、陸前高田産ワインの海外進出のチャンスも狙いたい。
 市内の農業者でつくるグループ「陸前高田 食と農の森」に所属しており、地産食材とワインをコラボレーションできたらという思いもある。
 産地がワインの名前として呼ばれるボルドーやブルゴーニュなどのように、原産地呼称が定着するような商品を発信し、地域を盛り上げたい。(聞き手・阿部仁志)