インタビュー2022/挑む気仙人⑤ 陸前高田市観光物産協会事務局員・小林大樹さん(29)

まちの情報発信に注力

 

 ──県職員などを経て、一昨年4月から陸前高田市観光物産協会で勤務。きっかけは。
 小林 矢作町出身で、高田高、専門学校を経て平成25年に県庁に入庁した。慣れ親しんだ地にという思いもあり、初任地に沿岸部を希望し、宮古地域振興センターに配属された。
 3年間働き、大船渡地域振興センターに転勤。実家から通勤する中で、地元はやっぱり落ち着くと感じた。自然に囲まれた陸前高田で暮らし続けたいという思いが増し、31年3月に県庁を退職した。
 翌4月に大船渡市のロッツ㈱に入社し、1年間働いた経験も大きい。会社が運営する竹駒町の玉乃湯で広報を担当し、SNSなどで発信する仕事を通じて、好きだと思っていた地元のことをよく知らないと気づかされた。陸前高田全体のことをもっと知りたい、伝えたいと考えていたところ、友人からの勧めもあって今の仕事に至る。
 ──採用後すぐに動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」に、協会公式の「陸前高田市観光チャンネル」が開設された。
 小林 開設以来、自分自身が出演する動画の制作、投稿を担当している。もともとカメラが好きで、友人と旅行に行けば頼まれてもないのに、旅先の思い出をまとめた動画をDVDに焼いて配ったりしていた。自然と動画の編集が趣味となり、採用面接時にも「動画での発信をしたい」とアピールした。
 一昨年5月の初投稿からこれまでに21本の動画を公開し、総再生回数は2万3000回を超えた。このほかにフェイスブックなどのSNSには、短めの動画を載せている。
 ──小林さんの気さくな人柄も感じられる動画が投稿されている。反響は。
 小林 動画投稿の目的は、市内の食、名産・名所、伝統文化の発信。陸前高田の良さ、人の温かさをより身近に感じてもらうため、できる限り取材先の人にも出演してもらうようお願いしている。
 趣味が高じた業務を担当し、とてもやりがいを感じている。特にうれしいのは視聴者からの反応。「動画を見て陸前高田に遊びに来たよ」「紹介されていた宿泊施設に泊まったよ」などという声を実際にいただいた時は、大きな励みになった。
 当初は、自分が出演して陸前高田の観光情報を発信することに不安があった。でも、いざ始めると地元でも「動画見たよ」と声をかけてくれてうれしく思っている。
 根は人見知り。旧友には「小林がユーチューブをやっているのか」と驚かれると思う。正直、自分でも驚いているが、取材先では初めて話す人がほとんどで、取材を重ねるたびに関係を広げられて楽しい。
 ──協会は高田松原津波復興祈念公園内の震災遺構を案内するなど、震災の教訓を伝えるパークガイド事業も行っている。
 小林 昨年6月に始まり、自分もガイドの一員。昨年末時点の利用実績は141件計5829人。新型コロナウイルス禍にありながら県内の小中高生を中心に、多くの人に利用してもらっている。
 案内の最後には「自分のように後悔してほしくない」という思いを毎回伝えている。自分は高田高の卒業式を終えた10日後に震災に遭った。「式後も会おうね」「クラスで集まろう」と友人たちと交わした約束が、すべて津波に奪われた。
 陸前高田は津波だが、全国的にはさまざまな災害が起きている。被災地の教訓を自分事と捉え、「あしたもみんなに会えるため」の備えの実践を促したい。またガイドを通じてあれから10年がたち、復興が進んだ新しい陸前高田も知ってほしい。
 ──コロナ禍で観光業は、大きな影響を受けている。
 小林 入職時はすでにコロナ禍に見舞われていた。全国の人たちに来ていただきたいのに、「ぜひ陸前高田に」という言葉を使えないもどかしさをずっと抱えている。
 ただその分、取り寄せできる特産品をPRするなど「ウィズコロナ」の宣伝はできる。収束後、陸前高田へ行こうと思ってもらえるような動画作りをしていきたい。
 震災から10年がたった。支援者への感謝の気持ちを忘れず、そうした方々に陸前高田の今を知ってもらい、再訪してもらえるよう、さまざまな情報を広く発信していく。
 (聞き手・高橋 信)