ローカル5Gで防災学習 津波伝承館の基地局活用 葛巻高生徒が体験(別写真あり)
令和4年2月16日付 7面

県による「ローカル5G等を活用した遠隔見学実証」は14日夕、陸前高田市の東日本大震災津波伝承館などで行われた。県が同館に整備したローカル5Gの基地局、アバターロボットなどのデジタル技術を活用した初の試みで、葛巻町にある県立葛巻高校の生徒らが地元にいながら同館を見学。生徒たちは先端技術による防災学習を通じて、津波の恐ろしさや災害への備えなどを学び、同館への関心を高めた。
県が初の遠隔見学実証
5Gは、第5世代移動通信システムの略称。通信をより高速にするとともに、大容量データの送受信や低遅延、多数接続などを実現しており、通信事業者によるサービスが展開されている。
ローカル5Gは、通信事業者ではない企業、自治体などが個別に利用できる5Gネットワーク。県はローカル5G等のデジタル技術を活用し、中山間地域などが抱える地域課題解決モデルの構築に向けた取り組みを推進している。
令和3年度はその一環として、東日本大震災津波伝承館にローカル5Gの基地局を整備。高精細映像が撮影できる360度カメラ、遠隔操作や見学などに対応したアバターロボットも導入した。
遠隔見学実証は、こうしたデジタル技術を活用し、中山間地域の子どもたちに震災学習を体験してもらおうと企画。同館、葛巻高敷地内の「勇往会館」、盛岡市の県庁などをインターネットで結んで行われ、同校の1、2年生12人をはじめ、伝承館長でもある達増拓也知事らが参加した。
県庁の達増知事は「葛巻町は再生可能エネルギーで岩手を代表する活躍をしている。デジタル化、情報通信技術の分野でも岩手の先端を走ってほしい」などとあいさつ。見学では、同館解説員の金野聡子さん(58)が案内を務めた。
前半では、達増知事が館内のアバターロボットを遠隔操作し、生徒らは館内を歩いているかのような感覚で見学。その後は、金野さんの案内に合わせてロボットが自動追従し、館内の様子を参加者らに伝えた。
被災した気仙大橋の一部や消防自動車の展示コーナーなど館内3カ所には、360度カメラを設置。このポイントでは、生徒たちがVRゴーグルをのぞいて津波の威力、被災状況などを間近にした。金野さんの解説にも熱心に耳を傾け、被災地の復興に向けた歩み、災害への備えなどにも理解を深めた。
見学後は、岩手大学地域防災研究センターの越野修三客員教授と生徒たちが、オンラインで意見を交換。生徒らは「葛巻で起こる災害の可能性は」などと質問し、越野氏は大雨による川の増水、土砂災害などの危険性を挙げたうえで「災害に備えて何をしなければならないかを考え、助けられる側ではなく、助ける側になってほしい」と呼びかけた。
参加した生徒らは、「津波の怖さや、自分たちにも災害が起こりうるということを実感できた」「新型コロナウイルス禍で現地での震災学習はできないが、情報機器を使ってその場にいるような体験ができた。デジタル化が進む中で、こうした体験機会が増えるといい」と感想を述べた。参加者らにはアンケートを行い、今後の取り組みに役立てていく。
県ふるさと振興部科学・情報政策室の木村幸地情報化推進課長は「実証後の課題といった洗い出しも必要となるが、4年度はローカル5Gを活用し、複数の学校での見学、県外とつなぐ取り組みも考えたい。伝承館は震災の記憶や教訓を伝える重要な場だが、コロナ禍の制約がある中で、通信技術を生かして離れた場所ともつながり、交流を深める機会をつくりたい」と今後の展開に期待を寄せていた。