派遣の経験を財産に帰任 市で3年勤務 JICAの木全さん 市街地活性化などに尽力

▲ 「陸前高田市は自分にとっても大切な場所」。派遣職員として3年間業務に当たった木全さん

 国際協力機構(JICA)から陸前高田市に派遣され、市商政課長として3年間勤務した木全洋一郎さん(50)が、31日に任期を終える。タイ駐在中にスマトラ島沖地震を経験し、天災の脅威、継続的な支援の重要性を知った。同市では東日本大震災からの創造的復興に向け、中心市街地の活性化策や新型コロナウイルス禍に伴う経済対策などを、市職員とともにゼロベースから考え、打ち出してきた。「何ものにも代えがたい貴重な経験をさせていただいた。持続的なまちの発展を心から願っている」と思いを寄せる。

 

 震災で被災した事業者のなりわい再生を一丁目一番地に、産業振興と地域ブランディングに従事してきた仕事もあと1日。「応援職員という立場だったが、『応援』というつもりは全くなく、市民の一員として業務に臨んだ。あっという間の3年間だった」と晴れやかな表情で語る。
 千葉県柏市出身で、横浜国大大学院を修了後、平成9年にJICAに入職。タイ、タンザニアの2カ国に通算7年間駐在した。JICA本部などでは、主に開発途上国の「地方行政支援」畑を歩んできた。
 陸前高田市には、タンザニアから帰国後の平成27年、知り合いがいる縁で一度訪れている。大規模な基盤整備の真っ最中で、被害の甚大さを痛感した。スマトラ島沖地震に襲われたタイのリゾート地・プーケットの惨状や休みを返上して働いた発災直後の記憶がよみがえり、「東北のため何かできないかと思った」という。
 31年4月、同市商政課長に着任し、「派遣されるとは考えもしなかった」と不思議な縁を感じた。ゼロからのまちづくりという前例のない課題に直面していた同市。木全さんは想定外の事態に即して新たな事業を生み出す途上国でのノウハウを生かし、同年度新設された商政課をけん引した。
 わが町のために再起を図る事業者と同じ目線で市街地活性化を模索する日々。「『寄り添う』という言葉の意味を、この派遣期間を通じて学ばせていただいた。JICAに戻っても生きる経験だ」と胸を張る。
 商政課を管轄する地域振興部の阿部勝部長は「この3年間は、最終盤のハード整備から持続的なまちづくりへと復興のステージが切り替わる非常に難しい期間。コロナ禍もあった中、自治体での勤務経験が初めてとは思えない働きぶりでリードしてくれた。戻ってしまうのは正直残念だが、大きな刺激を与えてくれた」と感謝する。
 31日は退職職員の辞令交付式に臨み、夕方、陸前高田市をたつ。4月からの勤務地は北海道帯広市で、JICA帯広の代表として着任する。木全さんは「陸前高田は自分にとって大切な場所。いつか『ただいま』といって帰ってこられる日を楽しみにしている」とほほ笑む。

 陸前高田市は本年度、全国の13自治体・団体から28人の派遣職員を受け入れ、このうち、20人が任期を終えて派遣元に戻る。今月22日には市役所で帰任者に対する感謝式を行った。令和4年度は、10自治体・団体から14人を受け入れる予定。