復旧進む歴史遺産 今泉の旧吉田家住宅主屋 震災で全壊 現地で上棟式(動画、別写真あり)

▲ 上棟式を記念し、建物の前でかわいらしいダンスを披露する気仙保育所の子どもたち

 

 東日本大震災の津波で全壊し、陸前高田市が復旧を進めている気仙町今泉地区の県指定有形文化財・旧吉田家住宅主屋の上棟式が21日、現地で行われた。藩政期に気仙郡政の拠点だった歴史的建造物で、復旧事業は被災部材の回収や脱塩など地道な作業を経て、骨組みの完成に至った。工期は令和7年3月までで、一般公開は同年5月を予定している。            (高橋 信)【7面に関連記事】

 

7年5月に一般公開

 

 上棟式には市や市教委、市から復旧業務の委託を受けている市建設業協会、地域住民ら合わせて約100人が出席。神事では気仙大工の棟りょうら職人約10人が歌い上げる「お悦びの謡い」など、伝統の儀式が行われた。
 終了後、地元の気仙保育所の4、5歳児17人が記念のダンスを元気よく披露。餅まきも行われ、青空の下、にぎやかな声が響いた。
 主屋の場所は市の土地区画整理事業で約6・2㍍盛り土したかさ上げ地で、昨年8月に着工。海抜10・8㍍の高さに変わったが、震災前の地割を伝えるため、立っていた位置を変えることなく〝垂直移動〟させた。

 建物は木造2階建てで、屋根はかやぶき、和瓦ぶき。延べ床面積は317・6平方㍍。回収した部材を最大限活用し、昭和40年代の増築分を除いて、県文化財指定時(平成18年度)の姿に復元する。
 建設業協会が基礎工のうえで特に苦慮したのが、100カ所以上の「礎石」の設置だ。礎石は建物の柱などの下に置く土台石で、大きさや形はさまざま。藩政期の建物を現代によみがえらせるという過去にない事業の重要性を踏まえ、設置位置や石の向きなどを忠実に再現した。
 今後は屋根のかやぶき、壁の復旧などを行う。昔ながらの技法にこだわり、土壁を下塗り後、2度塗り重ねるなど時間のかかる工程を慎重に進めていく。
 市教委によると、総事業費は概算で6億7500万円を見込み、県の補助金や市独自の復元基金、ふるさと納税寄付金などを充て

る。敷地内には庭園に加え、トイレや駐車場などを設ける。
 吉田家は江戸時代に仙台藩の旧気仙郡(陸前高田市、住田町、大船渡市、釜石市唐丹)24カ村を統治する「大肝入」を代々世襲

し、郡政の中心的な役割を果たしてきた。吉田家住宅は享和2(1802)年に建築され、藩政期の歴史を知る数少ない遺構として、平成18年9月、県指定有形文化財(建築物)に指定された。
 戸羽太市長は「部材を集めるなど何度も困難があった中、上棟式を迎えることができた。吉田家当主や地域住民らいろいろな人の思いが形になってきたことをうれしく思う。完成まで時間はかかるが、その過程も見てもらいたい」と期待した。