戦争の影響 地域経済にも 露のウクライナ侵攻開始から2カ月 一日も早く平穏な日々を(別写真あり)

▲ 陸前高田市高田町の浸水域にある米沢商会ビルに掲げられた大小のウクライナ国旗

 ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2カ月余りが経過した。ロシアが世界第3位の原油産出国であることや、両国が小麦の世界輸出量の約3割を占めることの影響は甚大で、輸入依存度が高い日本では石油化学製品から食品まで、さまざまな価格が押し上げられている。気仙でも2年以上続くコロナ禍と合わせ、企業や家計が二重の打撃を被る。一方、東日本大震災を経験したからこそ「ウクライナが平穏無事な生活を早く取り戻せるように」と住民が寄せる思いも強く、戦争の早期終結を願う行動が各地で見られる。(鈴木英里)

 

住民ら早期終結願う

飲食店が価格改定を余儀なくされるなど、戦争の影響は随所に

 戦争による日常生活への影響が大きいのは原油や食料品。とりわけ、車社会の地方にとってガソリンの高値が長期間継続していることは大きな痛手で、加えて物流コストもかさむことから、あらゆる商品の小売価格があおりを受けている。
 電気、ガス料金の値上がりも企業や家庭を圧迫する。電力会社も、調達コストの上昇などにより「現状では価格の下がる要素が一つもない」と、ウクライナ情勢が落ち着かない限り、今後も利用料金が上昇する可能性があることを指摘。利用者の支払い額軽減のために企業側が費用負担する制度もあるため、「お客様も会社も、誰一人得しない状況」という。
 また、国産小麦を使う製菓・パン店などでは「戦争による直接の影響はまだそこまで大きくはないが、輸入小麦が高騰すると、連動して国産も高くなると考えられ、今後のことは分からない」と見通しに不安を覚える。
 欧州からの航空機がロシア上空を飛行できず、すしだねや刺し身として人気が高いノルウェー産サーモンの輸入量も大きく減少。加えて、銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除する制裁を科したことで、イクラ、カニなどロシア産海産物の調達も難しくなっており、これらを使ったメニューの提供を一時中止せざるを得なかった飲食店もある。「ロシア産と表に出ると、お客様の心証も悪い」といった理由もあるという。
 陸前高田市気仙町にある発酵パーク・カモシー内で営業する「発酵食堂やぎさわ」も、原料価格の高騰を受けて今月、価格改定に踏み切り、魚介類や鶏肉を使ったメニューの一部を10%ほど値上げした。
 同店の阿部史恵店長は「コロナ禍に重ねて、輸送費などの物流、仕入れている鶏肉の飼料、機械関係、資材など、昨年来、何もかもが値上げを続けている。企業努力だけではどうしてもコスト回収できず、品質保持と安定供給のため、不本意ながら価格を上げさせてもらうよりほかなかった」と心苦しさをにじませ、「スーパーや飲食店などで影響のない店はないのでは」と語る。
 同様に、コロナ禍により続いてきた苦境が戦争で一気に加速したと感じている事業所が多い一方、「なんらかの形で連帯を示したい」と考えるところも。
 気仙では、商店、NPOの事務所、神社などにウクライナ国旗である青黄旗を掲げ戦争反対を訴えたり、各種団体による抗議活動が行われるなど、平和への意志がさまざまな形で表明されている。
 陸前高田市高田町のパッケージプラザヨネザワでは、民間唯一の震災遺構として残している同町内の「米沢商会ビル」に今月、大小のウクライナ国旗を掲げた。
 紙やプラスチック、ビニール製の包装資材、製菓材料などを扱う同店では「(仕入れ価格が)上がっていないものはない」というほどに影響を受け、厳しい状況が続く。一方、店主の米沢祐一さんは「周囲も含め、さまざまなものの値上げについても〝そこはそれ〟と受け止めている人が多い」という。
 それというのも、「ウクライナのゼレンスキー大統領の演説の中で『わが国を侵攻という〝津波〟が襲っている』という言葉があった。被災した自分たちにも共感できる部分が多い」と、戦禍のただ中の人々に思いを寄せるためだ。
 今月に入ってからビルに国旗を掲揚したことについて、米沢さんは「戦争が長く続くほど、世間の関心は薄れてしまう。いま改めて、旗を見た人の心を少しでも動かすことができれば」といい、「こちらは天災だったが、あちらは人災。人の力で防ぎようがある」と早期終結を願っている。