2022参院選/岩手選挙区 自民に軍配 与党 改選過半数超え圧勝 気仙も広瀬氏制す
令和4年7月13日付 1面

10日に投開票が行われた第26回参議院議員選挙は、連立与党の自民、公明両党が合わせて76議席を獲得し、改選過半数(63)を超え、非改選を合わせて過半数(125)を上回った。自民は63議席を獲得し、単独でも改選過半数を占めた。与党に日本維新の会と国民民主党を含めた憲法改正に前向きな勢力は非改選と合わせ、国会発議に必要な3分の2(166)を超え、177議席となった。5氏が立候補し、実質的には与野党一騎打ちの構図となった岩手選挙区(改選数1)は、自民の新人・広瀬めぐみ氏(56)が26万4422票を獲得し、立憲民主の現職・木戸口英司氏(58)を2万2248票上回るなど、4候補を破って初当選。気仙は3市町全てで広瀬氏が木戸口氏をリードした。同選挙区の投票率は55・38%で、令和元年前回選の56・55%を1・17ポイント下回った。(八重畑龍一、清水辰彦)
■全 国
今参院選は、物価・エネルギー価格高騰や新型コロナウイルス下の経済対策、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた外交・安全保障政策、憲法改正などを争点に、改選124議席と非改選の神奈川選挙区の欠員1を補う計125議席(選挙区75、比例代表50)で争われた。全国の投票率は52・05%で、3年前の前回選を3・25ポイント上回った。
選挙区と比例代表を合わせて自民は63、公明は13を獲得。対する野党は立民が改選前から6減らし、17にとどまったが、野党第1党は維持した。日本維新の会は改選前の2倍の12議席を獲得。比例代表に限ると、維新が立民を上回り、野党トップの得票数となった。
32ある定員が1人の1人区のうち、主要な野党候補が実質一本化され、与党と対決する構図となった選挙区は11にとどまり、残りの21の選挙区では主要野党候補が競合。結果として、1人区は自民が28勝、野党系が4勝と明暗が分かれた。
国民民主党は5、共産党は4、れいわ新選組は3、社民党、NHK党、参政党は各1議席を獲得した。
■県内・気仙
岩手選挙区で初当選した広瀬氏は、本県初の女性参議院議員となり、自民としては平成4年以来、30年ぶりの議席奪還を果たした。
昨年11月の出馬表明から、ほぼ休みなく県内で遊説やあいさつ回りを行い、「歩く選挙」を徹底。党や公明の県議らの支援を受け、課題とされた知名度アップを急ピッチで進めた。
演説内容は弁護士の経験を生かして強調した女性・子ども政策の立案や人口減少、女性・若者の流出対策に加え、農林水産業の振興など、地域課題に即した訴えに膨らませていった。
気仙では鈴木俊一財務相(衆院岩手2区)の地区後援会(鎌田和昭会長)や党支部の県議、市町議がフル回転。遊説や動員の計画も具体的な目標を共有し、緊張感ある運動を展開した。
気仙の得票は広瀬氏1万5252票─木戸口氏1万1769票。内訳は大船渡市が広瀬氏9172票─木戸口氏6511票、陸前高田市が広瀬氏4686票─木戸口氏4189票、住田町が広瀬氏1394票─木戸口氏1069票だった。
近年の国政選挙の気仙での得票数を与野党で比べると、木戸口氏が自民候補に勝った6年前の参院選とは逆転。3年前の参院選や昨秋の衆院選2区からは自民候補がリードを守った。投票率は大船渡市が59・86%(前回選比0・10ポイント減)、陸前高田市が61・67%(同0・77ポイント増)、住田町が62・76%(同0・63ポイント減)だった。
鈴木氏の地盤である沿岸、県北部の2区で約3万2000票の大差をつけ、3年前の前回選で自民候補が大敗し、全県で競り負ける要因となった内陸部では盛岡市で勝利するなど競り合いに持ち込み、2区での大リードを守り切った形だ。
1次産業、建設業者らの支持が広がりを見せた。鈴木氏の気仙地区後援会幹部は「訴えた農林水産業の振興、経済対策、ILC(国際リニアコライダー)誘致などへの市民の期待感が形になった。議員団も前向きに一つにまとまれたことが実を結んだ」と総括した。
再選を逃した木戸口氏は、達増拓也県知事の全面支援を受け、二人三脚で連動し、共産、社民各党の県組織も応援した。連合岩手や国民民主党の支持団体が推薦し、後押ししたが、各党本部の連携は距離感があり、他党推薦は得られず、「緩い共闘」にとどまった。
公示後は最大票田の盛岡市を地盤とする同じ立民選出の階猛氏(衆院岩手1区)との間で続いていた政治資金を巡る訴訟を県連が急きょ取り下げると発表。階氏が異議申し立てを行い、本来、仲間である党内で「場外乱闘」が再燃。最後まで階氏の支援はなかった。
投開票2日前には、自民の安倍晋三元首相が奈良市内で演説中に凶弾に倒れる事件が発生。直後に立民の小沢一郎氏(衆院比例東北)が木戸口氏の応援演説の中で「自民の長期政権が招いた事件だと言わざるを得ない」「自民に有利に作用するかもしれない」と述べて物議を醸し、党本部からも注意を受けた。
佐々木順一選対幹事長は10日、事件は「自民にプラスになったのではないか」と小沢氏と同じ見解を示したうえで、発言や階氏との訴訟の対応が結果に与えた影響は「検証が必要だ」と述べた。
気仙では5月に発足した後援会気仙支部(林﨑幸正支部長)の市町議を中心に、国民民主、共産各党の議員、連合気仙が支援した。選挙戦前半は気仙の野党陣営の中心的役割を果たしてきたベテラン議員が、療養のため不在となった。
複数の陣営関係者が公示前から「大票田の内陸勝負」とさじを投げるような空気感があり、熱量、運動量は広瀬氏陣営に比べ、見劣りした。回数が限られる遊説の中で同じ地域を回るなど、戦略も精彩を欠いた。
気仙支部幹部は「鈴木財務相への気兼ねもあり、2区は諦めた部分が相当あった。きちっと声がけもできなかった」と振り返った。
参政党の新人・白鳥顕志氏(51)、無所属の新人・大越裕子氏(58)、NHK党の新人・松田隆嗣氏(48)の3人は与野党対決に埋没した。
今選挙戦は全県的に来年の県知事選や県議選、統一地方選を見据え、出馬に意欲を持つ県議や市町村議、陣営関係者が各地域で票獲得への動きを活発化した。気仙では大船渡市長選が11月、陸前高田市長選が来年早々に控え、今回の結果がどう影響するかも注視される。
今選挙後の本県選出の国会議員数は自民と立民が各3人の同数で並んだ。知事選を軸とした来年の選挙イヤーは、勢いに乗る自民などの与党にとっては長く野党の政治基盤が強かった県政界の勢力図を塗り替える一大決戦とにらみ、野党にとっても「小沢王国」の存亡を懸けた〝天王山の戦い〟として臨むことが見込まれ、攻防は激化しそうだ。