心の支え 孫に全力エール 震災で一時廃業の石川夫妻 甲子園出場の後藤選手(一関学院)応援(別写真あり)

▲ 孫である後藤選手(一関学院)を応援する石川夫妻ら

 第104回全国高校野球選手権に出場した一関学院の捕手・後藤叶翔選手(3年)の祖父母・石川秀一さん(73)、春枝さん(73)夫妻=陸前高田市竹駒町=は12日、同校の2回戦を自宅で観戦した。大分代表の明豊と対戦した一関学院は5―7で惜敗したが、石川夫妻は、4打数3安打の大活躍を見せた後藤選手のこれまでの努力をたたえ、東日本大震災後の大きな支えとなってくれた孫の希望あふれる未来を願った。(鈴木英里)


 同夫妻の長女・後藤さゆりさん(47)の長男である後藤選手は、1回戦に続いて四番打者として登場し、2打席目を除いてすべて安打で出塁。先制し、試合をリードしていた一関学院は七回表で4―5と逆転を許したが、その裏、後藤選手がセンターへのタイムリーヒットを放って同点に追いつき、大きな見せ場を作った。
 同校悲願の3回戦進出はならなかったが、石川夫妻をはじめ、自宅で一緒に試合を見守った友人たちも立派に務めを果たした後藤選手の健闘に大きな拍手を送った。
 秀一さんは、父・正雄さんの代から気仙特産の「つばき油」を製造。平成23年の大津波で気仙町にあった工房と自宅は全壊し、後継ぎの長男・政英さん(当時37)を失った。打ちのめされた夫妻は廃業を決め、24年からは市内の就労支援事業所で搾油と利用者の指導にあたることで細々と伝統をつないできた。
 しかし、25年に自宅を建て直して同居するようになった後藤選手は、懸命に働く祖父母の姿に影響を受け、小学生時代から製油作業を手伝ったり、自由研究のテーマにつばき油を取り上げるなどして夫妻の心を励ましてくれた。2人はこれを大きな原動力とし、また地域からの熱烈な要望もあって、31年に製油所の再建を果たした。
 後藤選手について、「とにかく優しい子。私たち年寄りのこともないがしろにせず、いつも気にかけてくれる」と語る春枝さん。高校入学のため陸前高田を離れる際も、製油所で〝最後の手伝い〟をしてくれた。
 めったに会えなくなった孫の姿を見られるのは試合の時だけだったと振り返る秀一さんも「春の大会で花巻東に負けてから、その悔しさをばねに大きく成長してくれた。試合には敗れたが、本当に誇らしい存在だ」と目を細める。
 「まずはゆっくり休んでから、自分自身の次なる希望をかなえてもらいたい」と秀一さん。長男を失って落ち込んでいた自分たちの心に再び火をともし、生きがいである製油所の仕事にまい進させてくれた後藤選手と、姉・聖空さん(20)きょうだいのどちらにも、明るい未来を歩んでいってほしいと心から願う2人だ。