研究を復興の活力に 奈良教育大学が3年ぶりの現地研修 普門寺の文化財調査など実施
令和4年9月10日付 7面

奈良県奈良市の奈良教育大学(宮下俊也学長)の教員と学生らは7日から9日まで、陸前高田市で文化遺産と防災・減災をテーマとした現地研修を行った。米崎町の曹洞宗海岸山・普門寺(熊谷光洋住職)所有の文化財を調査したほか、東日本大震災後に建てられた各施設を訪問。年度内に調査概要を報告する予定で、復興する地域の活力につながるような情報を提示できるよう、活動に熱を入れた。(阿部仁志)
同大は、震災翌年の平成24年から、文化遺産の価値を明確にしながら地域の歴史を学ぶとともに、防災・減災教育について考えるフィールドとして、陸前高田市での現地研修を展開。同市教委と教育研究に関する連携協定も結び、市民にも知られていない文化財の価値の掘り起こしや、災害に強いまちづくりを後押ししている。
令和2、3年度は、新型コロナウイルス禍の影響で研修を休止。3年ぶりの実施となった本年度は、持続可能な開発のための教育(ESD)推進や、教員に求められる資質・能力を養成する同大の「ESD・SDGsセンター」事業の一つに位置づけた。
教員と学生、大学院生合わせて9人が来市。文化遺産調査と防災・減災の2チームに分かれて行動した。
このうち、文化遺産調査のチームは、造形芸術学研究室の山岸公基教授(62)と、現地研修のプロジェクトに開始当初から関わる同大顧問の加藤久雄さん(68)、学生・院生3人で普門寺を訪問。熊谷住職は「文化的価値のある物において、造った人たちの心意気が(専門家の目で)どう判断されるかを知りたい」と期待を寄せた。
熊谷住職から寺の歴史や境内にある建築物、仏像などについて説明を受けたあと、同寺所有の「木造伝聖観音菩薩坐像」や、山門に立つ木造の仁王像について調査を行った。
同寺は700年余りの歴史があり、同観音菩薩坐像は、開山時期に中国から同寺にもたらされた宝物の一つという。元の像は紛失し、現在ある像は国内で造られたものとされ、昭和49年に県指定文化財に登録されている。
また、江戸時代からある同寺山門には、制作時期不明の一対の仁王像が立っており、今回の調査対象に加えられた。
山岸教授と学生らは、像の寸法を精密に計ったうえ、像の内部を調べることができるビデオスコープなどを使い、これまでに見つかっていない銘文や、歴史に関わる情報がないかを調べた。同市の曳地隆元学芸員や、松坂泰盛市立博物館長らも現地を訪れ、調査を見守った。
後日、調査結果をまとめ、来年2月ごろには奈良で報告会が行われる見込み。
加藤さんは「よく知っている寺に〝こんなものがあったのか〟と、郷土の宝を知る機会になれば。学生たちにとっても、陸前高田での文化財の調査はとても多くの学びがある」とし、継続への願いも語っていた。