東日本大震災11年半/〝次の10年〟見据えて 震災ドキュメントを無料公開 『漂流ポスト』の清水健斗監督 今後は長編映画化も計画(別写真あり)

▲ 「タイムカプセルプロジェクト」特設サイトでは、生産者や震災当時の子どもなど、さまざまな人へのインタビュー映像を公開。今後はドキュメンタリー映画化を目指す

 陸前高田市を舞台にした東日本大震災にまつわるドキュメンタリー『タイムカプセルプロジェクト~被災地からの手紙~』の制作が進んでいる。短編映画『漂流ポスト』により各国映画祭で高い評価を受けた清水健斗監督(39)=神奈川県横浜市=が制作総指揮を務める映像作品で、同プロジェクト特設サイト(https://www.timecapsule-project.com/)では、陸前高田市の人々や震災津波伝承館職員らへのインタビューを無料公開。今後はそれらを再構成したうえで、長編映画として劇場公開を目指す。(鈴木英里)

 

清水健斗監督

 明治~平成までの記録と記憶、伝統文化、思いなどを令和へも引き継ぐため、広島の被爆者の証言を収めるところから始まった同プロジェクト。震災被災地である陸前高田は、清水監督が以前、同市で『漂流ポスト』を撮影した縁から第2弾の舞台に選ばれた。
 撮影は震災発生10年を迎えた令和3年から、11年目に入った今年にかけて行われた。サイトでは、第1次産業従事者の思いや、さらなる復興へ向けた前進、震災伝承にかける姿勢、遺族に寄り添う活動など、〝次の10年〟に向けた展開を個別のインタビュー映像として掲載する。
 清水監督が目指したのは、「Web教科書」。「広島に行くと小学生でも戦争に詳しい一方、東京では終戦記念日さえ知らない子もいるなど、平和教育一つとっても地域格差がある。とはいえ、別の地域の子が広島まで行って被爆体験を聞くといった機会もなかなかない。東日本大震災の学習も同じ。ならばWeb上でそれらを学べるようにできないか、というのが『タイムカプセルプロジェクト』の発端だった」と語る。
 『漂流ポスト』はフィクションの形で、震災のこと、大切な誰かを突然失った人々の悲嘆を世界に発信できたと自負する一方、風化も如実に感じたという清水監督。「今度はノンフィクションとして、生の声を記録しておきたかった。震災を『過去の悲劇』としかとらえない人もいるので、今回は〝次の10年〟に向かって被災地の人々がどう動いているのかに焦点を当てた」とする。
 前作で世界中から高く評価された、詩的で美しい表現はドキュメンタリーでも健在。ただし、演出は加えず、相手から自然に話を引き出すことを心がけ、〝全部説明しない〟ことにもこだわった。相手の語った内容をすべて使うのではなく、見る人がそれぞれ〝考えられる〟余白・余韻を残すようにした。
 「震災遺構の保存にしてもさまざまな考えがあり、何が正解と言えないところがある。どっちが正しい、間違っていると単純には割り切れない出来事について問題提起し、見る人に考えてもらうことが、『伝える』ことや、風化防止にもつながると思っている」と清水監督は語り、再構成する際には未公開インタビューなども加えて、さらに踏み込んだ内容にする考えだ。
 取材したうちの一人で、震災当時は小学生だった女性の「次の日も、みんながいて当たり前だと思っていた。でもそれが当たり前でないと分かったのが震災だった。伝えるべきことを、今、伝えることが大事」という言葉が印象に残っているという清水監督。「伝えるべきことを今、しっかりと残し、未来のために保存していきたい」と話している。