■視点/視点 東日本大震災11年10カ月──大船渡市追悼施設整備の行方は㊤ 多様な思い どう反映 「じっくり議論すべき」の声も
令和5年1月11日付 1面

大船渡市は、東日本大震災の追悼施設整備に向け、整備方針の取りまとめを進めている。市側は候補地を数カ所に絞り込むなど、庁内検討や市民らのアンケート結果を踏まえた概要を示したが、先月開催された懇話会の出席者からは「じっくりと時間をかけて議論すべき」との声も。復旧・復興事業で完成された空間との調和も求められる中、犠牲者を追悼し、防災・減災を誓う場をどう整えるか。発災から11年10カ月が経過し、新市長となった状況下で、多様な意見からよりよい形を見いだす手腕が問われる。(佐藤 壮)
追悼施設を巡っては、令和元年度に各地区の代表者や学識経験者らで構成する防災学習センター(仮称)等整備検討官民会議において、「慰霊碑を設置する必要はあるが、設置場所や仕様については引き続き検討が必要」との提言を受けた。
こうした中、昨年2月の市議会定例会で、市長が追悼施設整備に取り組む姿勢を強調。5月に設置した庁内検討委員会は4回開かれ、8月には遺族や市民を対象にアンケートを実施した。
現段階で市側では、3~4月の整備方針決定と、令和5年度中の施工・完成を見据える。整備場所に関しては「市内で犠牲になられた方々のみならず、震災で犠牲になられたすべての方々を追悼したいと願う市内外からの人々が訪問し、追悼する場とするとともに、震災の記憶を後世に伝える」と掲げ、大船渡駅周辺などの数カ所を候補地として挙げる。
アンケート結果では、駐車場確保や公共交通機関からの徒歩移動が可能なことに加え▽県が公表した最大クラスの津波浸水想定区域に入っていない。浸水域の場合は、浸水しない高さに整備する▽海が見える▽見晴らしがよい▽復興の様子が感じられる▽海がそばにある──などを重視する意見が寄せられた。
このほかにも、バス停やBRT駅からの近さ、献花機能、構造上の制限有無など、考慮しなければならない点は多岐にわたる。犠牲者の氏名掲示のあり方、慰霊碑かモニュメント型にするかといった選択をはじめとした整備内容も、さらに検討を深めなければならない。
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こうした内容が盛り込まれた整備方針案の概要は、先月28日に初めて開催された懇話会の場で示された。各種団体の推薦者や学識経験者ら14人で構成し、役員選出後の協議は、非公開で進められた。
議論は約2時間で終了。出席した一人は「候補地は大船渡地区にしぼっていた内容だったが、委員の一人から地区外の提案もあり、なるほどと思った。浸水区域外の場所だったり、静かに手を合わせられる空間といった考えも重要だし、遺族側の気持ちも大切と思う。じっくり議論すべきだと思った」と振り返る。
他の委員からも「もっと時間をかけて話し合うべきと感じた」といった声が聞かれた。意見では、周囲の景観調和に加え、学びや前向きになれるような整備づくりを求める声も出たという。
例えば、アンケート結果で意見が多く寄せられた「浸水想定域ではない」「海がそばにある」の両立は難しい。復旧・復興事業が完了し、大規模な土地造成は考えにくい中、最終的に1カ所に絞るためには、丁寧な議論が必要となる。
また、追悼施設とあるが、規模のイメージは人によって異なる。「施設」という言葉に対して、公園のような空間を連想する市民も多い一方、概要をみると、既存施設内に慰霊碑やモニュメントなどを設置する程度の規模にも読み取れる。全体的なあり方の認識を共有する必要性も浮かび上がる。
次回の懇話会は今月26日(木)に開催される。庁内検討委員会や防災学習ネットワーク運営協議会、市議会での説明、住民からの意見も踏まえ、最終的には市長が整備方針を決める。
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議会説明や住民意見を踏まえた決定の流れは、各種計画の策定過程と変わらない。意見募集の段階では、さらに具体的な内容が明かされるはずだが、庁内検討委員会での調整過程もより詳しく示すべきではないか。
10年超にわたり復旧・復興事業を進めてきた組織として、どのような視点が重視されてきたかも、追悼施設のあり方を考える上で重要となる。数カ月後に方針決定を見据える状況下において、住民視点として判断材料が整っていない印象をぬぐいきれない。
先月15日に開催された定例記者会見で、渕上清市長はデジタル化の取り組みを例に挙げ、一般市民に市役所内の仕事が見えにくい現状を挙げ、さまざまな媒体を通じた発信に意欲を見せた。追悼施設の検討も、同じ指摘が当てはまる。新リーダーによる市政下での〝開かれた議論〟としても、今後の展開が注目される。