サケ稚魚育成 苦境下で奮闘 拠点施設の盛川漁協 北海道の種卵に頼り大型化

▲ サケ稚魚の育成・放流を進めている盛川漁協

 県内沿岸における令和4年度の秋サケ漁獲数は、前年度比21・4%増となったものの、過去5年平均実績の1割にも満たず、低水準に終わった。県全体で厳しい実績が続き、ふ化事業は拠点化が進む中、その一つである大船渡市の盛川漁協(佐藤由也組合長)では、北海道からの種卵に頼りながら育成。稚魚を大きく成長させて放流する取り組みも進める一方、今後の先行きは見通しにくく、さらなる対策の重要性が浮き彫りになっている。(佐藤 壮)

 県農林水産部水産振興課がまとめた4年度最終版の秋サケ漁獲速報によると、県全体の沿岸・河川累計捕獲数は16万9280匹。過去最低だった前年同期を21・4%上回った。
 県沿岸の累計漁獲量は11万3720匹(重量299・19㌧)。前年度は9万1941匹で、23・7%増加。河川捕獲は4万9392匹で、前年度より24・2%増えた。
 しかし、沿岸漁獲の重量は過去5年平均(3700㌧)の8・1%にとどまる。金額も3億4927万円と伸びず、同平均(30億3403万円)の11・5%となっている。
 大船渡市魚市場への累計水揚げ数は8383匹で、前年同期比2348匹(38・9%)の増。1㌔当たりの平均単価は1059円で、前年同期を269円(20%)下回った。
 気仙の河川捕獲数(海産を除く)をみると、吉浜川が442匹(メス198匹、オス244匹)、綾里川が314匹(メス160匹、オス154匹)、盛川が1403匹(メス638匹、オス765匹)、気仙川が9220匹(メス4010匹、オス5210匹)。いずれも前年を上回った。
 採卵数は吉浜川が26万9000粒で、前年同期比29・3%増。盛川が107万3000粒で同7%減、気仙川が920万6000粒で同0・7%増だった。
 県内全体で採卵数が大きく減少している中、ふ化事業の拠点化が進む。気仙では、盛川漁協が担っている。
 同漁協では捕獲数は前年を上回った一方、未熟卵や過熟卵が多く、採卵実績は下回った。こうした中、前年度よりも捕獲数が多かった北海道から約700万粒を確保。これを生かし、盛川漁協内分の稚魚約570万匹と、吉浜漁協向けの約220万匹を育てた。
 通常は1匹1・5㌘程度で稚魚を放流しているが、今年3月から始まった今季の放流は3㌘程度にまで育てた大型稚魚で行い、生存率向上を図る。施設規模は現状と変わらないため、職員たちは密度上昇によるストレスにも気を配りながら作業を続ける。
 拠点化によって盛川漁協では育成数が増えたが、ふ化事業自体の採算性確保は厳しい。同漁協では、トラウトサーモンの育成など新たな漁業資源確保に向けた取り組みにも力を入れているが、まだ収益の柱とはなっておらず、これまで以上に官民一体となった対策の充実が求められている。
 佐藤組合長は「自然による魚確保だけでは限界があり、当面は北海道の種卵に頼らなければいけないだろう。今後も厳しい状況は続く」と話し、危機感をにじませる。