古里 見つめ直したい 気仙町出身の村上さん 陸前高田企画へ 魅力再発掘に強い意欲
令和5年4月15日付 7面

この春、立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科を卒業した陸前高田市気仙町出身の村上空さん(25)は今月、同市の地域商社・陸前高田企画㈱(村上清代表取締役)に入社した。市の特産品や地域資源の良さを再発掘し、新たな価値を加えて発信するという同社の理念に共感する村上さん。伝統文化や歴史、自然、そして人の温かさ――「自分をはぐくんでくれた古里の魅力を一つ一つ見つめ直し、それを内外の方々にお伝えできるようになりたい」と、まっすぐな瞳を輝かせる。(鈴木英里)

大学2年時の村上さん。立教大コミュニティ福祉学部の学生、教職員らとともに、けんか七夕の会場で和太鼓の演奏を披露した
「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー(世界的な視座で物事を考えながら、地域のために動く)」。村上さんの胸に刻まれる言葉の一つだ。海外の姉妹都市、友好都市との貿易や、知られざる魅力的な場所へ案内するツアーの企画など、同社の事業内容はまさにそれと合致する。
高田高校在学時から、国際協力に関心を寄せていた村上さん。大学3年の時に休学して単身カナダへ留学するなど、英仏の語学力向上にも努めてきたのも、「東日本大震災の際に手を差し伸べてくれた海外の人たちへ、いつか恩返しできるよう力を蓄えたい」という理由からだった。
一方で、その視線は外にだけではなく、内側――自らの古里にもずっと向けられてきた。
震災で壊滅的な被害を受けた気仙町今泉地区で生まれ育った。町内会が解散し、住民が散り散りになりながらも、同地区では保存連合会が中心となって「けんか七夕」の伝統をずっとつないでいる。父・徳彦さんもそのメンバーの一人だ。
日々の生活もままならなかった当時から、気仙町の誇りと伝統を守るため情熱を注いできた人たち。会えば優しく声をかけてくれる、かつてのご近所さん。「なんて誇らしく、ありがたいことなんだろうと、胸がいっぱいになる。失ってから、それまで当たり前にあったものの大切さに気づくことができた」と村上さんは振り返る。
自分をずっと守り育ててくれた古里の役に立ちたいと、修士論文ではけんか七夕を取り上げた。村上さんは「口頭で伝えられてきたものを明文化し、残しておくことが、学生である自分にもできる役目だと思った」と語る。
修論を執筆中に知った陸前高田の歴史・文化にも、新たな感動を覚えた。まだまだ知られていない素晴らしい魅力が、地元にはたくさんあると気づいたからだ。人々の営みに結びつき、継承されてきた伝統の尊さ、歴史の面白さを、体験などを通じて発信することにも興味があるという。
会社の同僚である先輩には移住者も多いが、「自分よりずっと陸前高田のことを知っている」と刺激を受けるばかり。「私も早くいろんな場所に足を運び、たくさんの方とお話ししたい」と期待で胸を膨らませる村上さん。今は運転中に何気なく見る風景にも心が動く。「小さい時に見ていた景色とは違っても、今はここが地元。古里のために働けるんだと考えるだけで、幸せな気持ちになる」――そう笑う顔に、希望を満ちあふれさせている。