「古里を元気に」 挑戦の一歩 20年来の幼なじみ 大坂さんと村上さん 海産物販売の会社を起業
令和5年4月16日付 7面

陸前高田市の大坂智央さん(26)と村上真聖さん(26)は、地元で採れた海産物の卸売りやイベントでの直売を行う合同会社「bigap」(ビギャップ)を立ち上げた。東日本大震災を経験し、長年抱えてきた地域貢献への思いを起業という形で実現。20年来の幼なじみ2人が「自分たちが関わる全ての人、地域を元気にしたい」と決意を新たに、地元で盛んな水産業で古里を盛り上げようと挑戦の一歩を踏み出した。(菅野弘大、高橋 信)
「陸前高田の海産物は高く評価されている。その魅力を最大限伝えられるように頑張らないと」。
昨年11月に設立し、会社名は未来へ大きく飛躍(アップ)する決意を込めて命名。業務は、市内5漁業者から仕入れたカキやホタテ、ワカメなどの卸売りとECサイト、イベント出店での海産物販売で、現在は県内外の飲食店、ホテルへの定期配送も行う。
高田小1年生のころからの幼なじみ。地元のサッカークラブ・高田FCから大船渡高まで、チームメートとして打ち込んだ。
震災発生時は市立第一中(現・高田第一中)の2年生。津波でまちが一変し、村上さんは自宅が流され、父・芳郎さん(当時49)と祖父、母方の祖父母を亡くした。大坂さんも、変わり果てた日常にショックを受け、「当たり前の生活が当たり前ではなかったことを知った」と振り返った。
大坂さんが岩手大、村上さんが群馬大の4年次には、2人でバングラデシュを旅した。約4週間の滞在で、難民危機や貧困格差などの問題を抱えながらも、生きる力にあふれ、笑顔を見せる現地の人々と触れ合い、将来への刺激を受けた。
大学卒業後、大坂さんは大船渡市で機械エンジニア、村上さんは東京のIT企業に就職したが、大坂さんが手がけていた海産物のECサイト販売を足がかりに、「2人で起業しよう。やるなら地元がいい」と会社設立につなげた。
現在は、個々にフリーランスとしての仕事に取り組みながら、海産物の知識を増やそうと、大坂さんはワカメ養殖、村上さんはカキ養殖の手伝いに励む。仕事に奔走する毎日だが、「全部自分たちで決めてやっているから楽しい」と笑う。
2人を起業へと突き動かしたのは、高校3年の県高総体、過去2年間勝てなかった強豪校を接戦の末に破った達成感。「あの興奮を味わったから、この先の人生も心を奮わせる生き方をしたいと思った。気持ちを共有できる仲間がいればなおさらいい」と村上さん。大坂さんも「心が没頭する、本気になれるシーンがあったからサッカーが楽しかった。常にあの緊迫感を味わう人生を生きたい」と挑戦の道を選んだ。
行政も地元の海産物に可能性を見いだし、起業した若者2人を応援する。12日、市役所で2人と懇談した佐々木拓市長は「素晴らしい挑戦で、市としても大変喜ばしいことだ。品質の高い水産品をぜひ全国に発信してほしい。市としても何か後押しできることがあれば検討したい」とエールを送る。
大坂さんは「自分たちが頑張ることで元気になってくれる人が増えたらうれしい。高田の海産物は間違いない。地元漁業者の方々と互いに『win―win』になるような関係を築き、いずれはイベントを開いたりして一緒に盛り上げていけたら」、村上さんは「高田の自然が好きだし、復興後のまちでやれることがたくさんある。若いからこそできる情報発信だったり、強みを生かして、自分たちが育った大好きな高田の海産物の価値を上げていきたい」と見据える。
同社では、5月13日(土)に盛岡市材木町で開かれる「よ市」に初出店する。問い合わせは同社(℡090・4317・2387、メールinfo@bigap.co.jp)へ。