「乾田直播」で稲栽培 気仙町の小澤惣一さん 農作業を省力・効率化 市内初の試み 耕作放棄地などの課題解決へ

▲ 高田沖地区の農地で農機を操縦し播種作業を行う小澤さん

 陸前高田市気仙町の畜産農家・小澤惣一さん(67)は、水を張らない状態のほ場に直接稲の種もみをまく「乾田直播」による飼料用の稲栽培に取り組んでいる。市内初の試みとして令和2年にスタートさせたもの。20、21の両日、高田沖地区の農地で播種作業を行った小澤さんは、作業の省力化や効率化につながる乾田直播の農法を確立し、耕作放棄地や担い手不足など地域農業の課題解決につなげられるよう、試行錯誤を続けている。(阿部仁志)

 

 乾田直播は、畑のように土に直接種をまき、発芽後に水を張って稲を育てる栽培法。稲苗を作る必要がなく、代かきも不要なことから作業の省力化が図られ、水を張ったほ場に苗を植えるよりも速く作業を進めることができる。アメリカやオーストラリアなどで普及しており、国内、岩手でも徐々にこの方式で稲を栽培する農家が増えているという。
 小澤さんは、東日本大震災後に整備された高田沖地区の農地で牛の飼料用の稲を栽培。乾田直播による栽培を始めてから4年目を迎え、2日間で約4・5㌶に「ひとめぼれ」や稲WCS(ホールクロップサイエージ)専用品種「つきはやか」の種をまいた。
 小澤さんは21日、家族とともに種まきを行った。播種機と、種をまいたあとに土を整えるローラーの2台の大型農機を使い、順調に作業を進めていた。
 同地区農地は、12年前の大津波で甚大な被害を受けたあと復旧工事によって整備され、令和元年5月に供用を開始。28㌶の農地で作付けできる環境が整った一方、高齢化や担い手不足などの理由で自ら耕作できない土地所有者も存在するのが現状という。
 「何も手を打たなければ、せっかく整備してもらった農地が耕作放棄地になってしまう」と農業者らが危機感を募らせた中、小澤さんは持続可能な農地の活用方法を模索。食用ではなく飼料用の作物を育てる稲WCSを取り入れた。
 最初の年は、水を張ったほ場に苗を植える従来の田植え作業を行い、2年目からは乾田直播を採用。効率的な作業で労働力を大幅に減らせる点に着目した。県大船渡農業改良普及センターによると、乾田直播を採用したのは「小澤さんが陸前高田市内初。気仙でも初めてと思われる」という。
 近隣で例がない初めての試みということもあり、ノウハウが十分とは言えなかった直近3年間は、発芽前や水を張ったあとの雑草対策などに悩まされた。農業仲間と試行錯誤しながら経験を積み重ね、今年までに「なんとか管理できる体制が整った」とする。
 小澤さんは「乾田直播を取り入れて作業が速く、楽になったという実感をもっている。順調に発芽するよう温度の変化に注意を向けつつ、8月の刈り取りを目指したい」と話していた。