復興事業の記録に高評価 『ゼロからのまちづくり』 日本建築学会著作賞を受賞
令和5年4月29日付 7面

陸前高田市の復興事業について、官民さまざまな立場から記録し、とりまとめた『復興・陸前高田 ゼロからのまちづくり』(鹿島出版会)が「2023年日本建築学会著作賞」を受賞した。「前代未聞の災害と復興事業の全体像について、関係者の記憶がまだ新しいうちにまとめられた点が貴重」として高い評価を受けた。 (鈴木英里)
同書は、陸前高田市の復興計画策定に携わった東京工業大学の中井検裕教授、中小企業基盤整備機構として商業再生に尽力した流通科学大学の長坂泰之准教授、震災後に市の都市計画課長、建設部長などを務めた元市職員の阿部勝さん、同じく元都市計画課職員の永山悟さんの4人による共同編著。震災によって、市街地のみならず名勝・高田松原なども壊滅状態に陥った同市の復興まちづくりに関し、事業に携わった当事者の立場で述懐する。
また、市役所、商工会とその支援者、JV、UR都市機構、学識経験者らによる、ソフト・ハード両面の取り組みについて記述するほか、商業者らを交えた対談なども盛り込んだ。限られた時間と、前代未聞の規模で行われてきた復興事業をあらゆる角度から見つめ、一冊にまとめた書籍はほかの被災自治体には例がなく、「復興とは何か」を考える上でも貴重な資料となっている。
今回の受賞は、関係者の記憶が鮮明なうちに復興事業の全体像をまとめた点、それらがほかの災害被災地においても参照されるであろう点が評価されたもの。ともすると当事者による事業誌は自画自賛になりがちである中、審査委員からは「自讃ではなく、事業の経験を通した今後の課題の提示が意識されている」と講評を受けた。
現在は同市のまちづくり会社・陸前高田ほんまる㈱の取締役を務める阿部さん(62)は、「『俺たち頑張ったよね』と、ただの自己満足で終わるような内容にはしたくなかった。『この経験と反省を将来に生かしてもらえるものに』という思いが企画段階からあり、そこを客観的に評価していただいたのがありがたい」と語る。
また、同書がこの種の事業記録誌としては珍しく重版(増刷)がかかった点について、阿部さんは「広く読んでいただいているということ。復興に対する使命感から執筆にあたってくれた皆さんにも喜んでもらえると思う」といい、官民一丸となった〝チームたかた〟の同志らに感謝の意を示した。
日本建築学会は毎年、建築に関する学術・技術・芸術の発展向上に長年の業績がある個人・団体、学術の進歩に寄与する優れた論文、優れた作品、技術などを顕彰。近年では大船渡地区消防組合大船渡消防署住田分署が「2020年日本建築学会作品選奨」に選ばれている。