和やかに会話弾ませ 天皇・皇后両陛下 大船渡ご訪問 復興商店街巡り触れ合い(別写真あり)

▲ キャッセン大船渡で会話を交わされる天皇・皇后両陛下=大船渡町

 

 天皇・皇后両陛下は4日、全国植樹祭へのご出席に先立ち、大船渡市大船渡町のキャッセン大船渡を訪問された。東日本大震災で甚大な被害を受け、新たに整備された市街地で商店街関係者らとご懇談。即位前の平成23年、まだがれきに覆われた時以来のご訪問時と変わらず、優しさ溢れる笑顔で励まされた。(佐藤 壮、菅野弘大)

沿道に詰めかけた多くの地域住民=同


 午前11時ごろ、両陛下がキャッセン大船渡にご到着すると、雲間から太陽の光が差し込んだ。㈱キャッセン大船渡の田村滿代表取締役と臂徹取締役が出迎えて案内し、両陛下は加茂ガーデン前で、経営する志田宏美さん(63)らと会話を交わされた。
 同店は、震災で町内の店舗が流失。現店舗前には、津波で浸水したリヤカーなどを生かし、商品を陳列している。皇后さまは「ヨーロッパの街並みで見るお花屋さんのようですね。とても癒やされます」と声をかけられたという。
 志田さんは「お花が好きでいらっしゃるようだった。優しく声をかけていただき、和やかなひとときだった」と振り返り、笑顔を見せた。
 隣接する「Hy's Café(ハイズカフェ)」前では、経営する下舘博美さん(60)とご懇談。天皇陛下は「震災前に営業していたお店はどちらのあたりですか」などと聞かれたほか、食事メニューにも関心を寄せられた。下舘さんの体調も気づかい、「無理しないように頑張ってください」などと述べられた。
 鬼椿市民雑貨店では、店員の小泉真名実さん(44)が、経営者で夫の洋さん(52)が加工するカッティングボードをはじめとした木製商品の特徴を説明。堅い木材から作り上げる苦労などを明かした。
 市社会福祉協議会が運営するにこにんプラザでは、田村福子会長(76)の案内で施設を見学され、利用者が作製したつるしびななどの展示品に「素晴らしいですね」と声をかけられた。ご懇談では、田村会長の「緊張で何を話しているか分からなくなりました」という言葉に、皇后さまが「大丈夫、ちゃんとお話しできていますよ」と笑顔でお声がけする場面も見られた。
 田村会長は「優しいお人柄と全てを包み込む笑顔が印象的だった。来ていただいて感動した」と感謝を述べた。
 ご出発前の約5分間、キャッセン内では市民らと触れ合う時間も設けられた。盛町の木下裕香さん(42)は「皇后さまが、長男(倖佐ちゃん、4歳)の目線までかがまれながら『おいくつですか』と声をかけられた。とても優しく、温かく接していただいた」と話し、感激の表情を見せた。
 両陛下は即位前の平成23年8月5日、被災者を励まされるため、大船渡市をご訪問。当時、津波浸水地で黙礼を捧げ、応急仮設住宅で暮らす住民に優しく声をかけられた姿を覚えている住民も多い。今回のご訪問を受け、キャッセン周辺の歩道などには、多くの人が詰めかけた。
 震災で自宅が被災した赤崎町の金野キヨ子さん(82)は「ひと目見たく、午前9時ごろから待っていた。足を運んでいただき、本当にありがたい」と語り、被災地に思いを寄せる両陛下に感謝を込めた。
 12年前にも両陛下の姿を拝んだという大船渡町の山﨑悠さん(88)は「両陛下のお元気な姿を見て勇気やパワーをいただこうと来た。再びお目にかかれてうれしい」と再会を喜んだ。
 両陛下は、キャッセンご訪問に先立ち、大船渡プラザホテルで渕上清大船渡市長から市内の復興状況について説明を受けられた。平成25年7月に、当時の天皇・皇后両陛下が太平洋セメント㈱大船渡工場をご視察された時の状況や、赤崎、末崎両地区の震災直後からの変化、起業支援、交流人口の拡大、新たな養殖魚種への取り組みなどに耳を傾けられた。

 3日夜、市内で行われた県による記者会見では、視察1日目を終えられた天皇・皇后両陛下からのご感想が公表された。
 両陛下は、陸前高田市内で視察された復興の状況、市民らとのやりとりを振り返られたうえで、「本日の訪問を通じて、さまざまな基盤整備が進んでいることが分かり、喜ばしく思いました。一方で、震災により、家族や友人を失ったり、地域コミュニティーの消失などにより、いまだに心の傷が癒えない方が大勢いることを改めて聞き、本当の意味での復興には、まだ課題が残されていると思いました」と述べられた。
 そして、「引き続き、被災地に心を寄せていきたいという思いを新たにしています。被災地の人々が、真に安心して暮らせる日が来ることを切に願っております」と被災地への思いを強くされ、「私たちを温かく迎えていただいた県民の皆さんに、心から感謝いたします」と結ばれた。