「岩姫サーモン」需要高まる 知られざる〝ご当地ブランド〟 陸前高田の名水利用して育成(別写真あり)
令和5年7月9日付 7面
陸前高田市矢作町の岩姫養魚場(本社・滝沢市、宇部稔代表)高田事業所は近年、ニジマスの養殖に力を入れている。通年出荷できるのが大きな強みで、今年は昨年の倍以上となる約8㌧の出荷を目指す。すでに「岩姫サーモン」の名称で市内の飲食店などからも好評を博しており、ご当地ブランドとしてのさらなる浸透が期待される。(鈴木英里)
同事業所は、およそ13年前に開設。イワナやヤマメなど、主に放流用や釣り堀向けの魚種を扱っていたが、ここ2年ほどはマスなどの大型魚の養殖にも力を入れている。
背景には、近年、秋サケの漁獲量が低迷している現状がある。同事業所を管理する宇部佑さん(27)が、市内のすし店を訪れた際にギンザケやニジマスの養殖をしていると話したところ、引き合いがあったことを発端とし、大船渡市の水産業者を通じて少しずつ取り扱いが広まっていった。
宇部さんは自社のサーモンについて、「脂も乗っているが、脂っこすぎず、うま味が強くて日持ちもいいと言っていただいている。身がしっかりしており、切っている最中に崩れることもない」と品質に自信をのぞかせる。
養魚場の水槽には、「岩手の名水20選」にも選ばれる「清水の湧口」から引き込んだ、冷たい湧水を利用。一日約1万7000㍑湧くという豊富な水量と、四季を通じた水温の変化が小さい点が、川魚を育てるのに適している。
宇部さんは「海面養殖の場合、問題となるのは水温。夏場に水温が23~25度を超えると魚は体調が悪くなり死んでしまう。湧水を利用すれば年間6~13度に保てて、この地域だと冬も凍る心配がない」と説明する。
これに伴って一年中ニジマスを出荷できるのが同事業所の最大のメリット。不漁の年や、秋以降のサーモンがない時期にも地場のものを提供できることから、ご当地ブランドとしての浸透も図りやすい。採卵してふ化させ、稚魚から親魚まで育てることを一貫して行う「完全養殖」である点もPRポイントだ。
さらに、卵にさまざまな「掛け合わせ」ができるのも完全養殖の強み。病気に強い種と成長の早い種を掛け合わせるなど、独自の研究を積み重ねている段階で、「ニジマスだとだいたい出荷できるのに3年かかるが、これが2年半まで短縮できた。今後は2年程度にできれば」と宇部さんも意気込む。
岩姫サーモンの需要は徐々に増えている。昨年の出荷量は3㌧。今年は8㌧ほどの出荷を見込み、来年には10㌧まで増やす計画。高田町の「鮨まつ田」にはサーモンのほか、「黄金のイクラ」と呼ばれ希少価値の高いヤマメの卵もごく少量ながら提供しており、評判だという。
宇部さんは「『地産地消』という考えが好きで、地元の飲食店さんにうちの魚が使われているのを見ると、とてもうれしい。施設が小さいので量産は課題だが、まずは地元で認知されたらいいなと思う」と話している。