環境アセスの準備開始 吉浜地区大規模太陽光発電の事業者 着工可能まで数年要する込みに
令和5年7月22日付 1面

大船渡市三陸町吉浜地区の大窪山市有地などで大規模な太陽光発電事業を計画する自然電力㈱(本社・福岡県福岡市、磯野謙、川戸健司、長谷川雅也代表取締役)は21日、県条例に基づく環境アセスメントの準備開始を明らかにした。事業に反対・不安を示す住民もいる中、科学的根拠に基づく評価などをもとに、安全性への理解を広げる方針。一方、方法書や準備書作成に伴う住民説明会、審査会審議など、着工可能となるまで数年を要する見込み。市も手続きによる知事意見や住民理解の進捗などを踏まえ、事業可否の総合的判断を固める姿勢を示している。(佐藤 壮)
環境アセスメントに関する対応は、同日開かれた市議会全員協議会で市当局が説明したほか、同社が報道機関向けにも公表。大窪山での事業者は岩手三陸太陽光発電合同会社で、自然電力が開発を担う。
現計画の事業用地は「元山」と呼ばれる大窪山牧場跡地の約96㌶で、太陽光パネルの設置面積は約20㌶。年間総発電量の約3・5万メガワットアワーは一般家庭約1万世帯の年間使用電力量に相当する。
土地所有者は市で、事業者と締結した停止条件付きの土地賃貸借契約に基づき進められる。市は事業可否についてはこれまで、環境アセスメントの要否判断などを踏まえて「総合的判断」を固めるとしてきた。
環境アセスメントは、大規模な開発事業などを行う場合、周辺環境の影響について事業者自らが調査・予測・評価を行い、その結果を公表し、県民や知事・市町村長などの意見を聞きながら環境への影響をできるだけ少なくするための手続き。
着工までの間、方法書や準備書の公告・説明を通じて事業内容が住民に示されるほか、県環境影響評価技術審査会での審議などを踏まえ、知事意見も受ける。県は平成10年に県環境影響評価条例を制定し、令和2年4月から太陽光事業が評価対象に加わった。
同社によると、経済産業省東北経済産業局から計画変更の認定を受けた昨年4月の段階では、自然電力側は条例変更の「経過措置」にあたるとして、アセスメントは必要ないとの認識を示していた。
その後、市などの意向を受け、県とアセスメントの要否判断に関する手続きなどを協議。アセスメントの意義を改めて認識し、住民に対して数値に基づく定量的・客観的なデータ提供を図る観点から、県による要否判定を受ける前に、同社自らで実施する判断をした。
太陽光事業が同条例の評価対象に加わる前の2年3月段階で、同社は牧場跡地を中心とした事業計画をまとめ、現計画と同規模のパネル設置面積を見据えていた。その後、環境面に配慮し、貴重な動植物の生態にかかわる湿地を避けるなど設置場所の見直しを進め、この流れが県条例の経過措置で環境アセスメントを不要とする「軽微な変更」にはあたらないという。
自然電力側では「環境アセスメントを通じ、土砂流出や漁業への影響懸念に対する定量的な判断が期待できる。情報をオープンにし、専門家の意見を聞き、できる限り不安の払しょくにつなげたい」としている。
一般的にアセス期間は1・5年~4年程度とされる。当初は令和4年夏の着工を見据えていたが、7年夏以降の着工となる見通し。着工から電力供給開始までの期間は2年程度とみている。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度・FITによる売電単価は1㌔㍗アワーあたり36円で、買い取り期間は令和22年まで。着工が遅れることで事業期間が短くなるが、同社では「確かに事業性は悪化するが、FIT終了後の市場への電力売却も見据え、努力したい」との意向も示す。
全員協議会で市側は、環境アセスメントにおける工事着手が可能となるまでの流れを踏まえたうえで、事業可否に関する総合的判断を固める方針を示した。環境面以外の判断材料に関しては「経済効果や住民理解、それに関する事業者側の対応などから判断したい」と述べた。
傍聴した荒金山・大窪山太陽光発電所建設に反対する会の横石善則副代表は「環境アセスメントをやることに関しては良かった。公的な機関の下で審査していくことは重要。われわれもFITや自然要件、補償などについて細かく調べていきたい」と話していた。