定在宅医療充実へ一丸 関係者ら「検討会」設置
令和5年7月29日付 1面

医師の不足など、医療資源が限られる住田町で、在宅医療の充実に向けた動きが広がっている。「住み慣れた地域で暮らし続けられる環境を」と、今月中旬には関係者らによる検討会が初めて開かれ、現状や課題、取り組みの方向性などについて確認した。次回から議論を本格化させ、関係者が一丸となって在宅医療を推進していく。(清水辰彦)
住田町では、平成21年に県立大船渡病院附属住田地域診療センターが無床化され、町内から入院できる施設がなくなった。令和2年には、それまでの医師3人体制が2人体制となった。
町内には現在、開業医がいない。在宅療養者に対して訪問看護や訪問介護などを提供できる体制はあっても、往診がなければ町外で入院せざるを得ず、在宅での最期を希望してもかなえることは難しい環境にある。人口が少ないだけに、入院が長期化すれば町の医療費が高騰するなど、さまざまな課題に直面している。
こうした状況から、在宅医療のあり方だけでなく、今後の高齢化社会を見据えた保健・医療・福祉・介護事業等のあり方について検討するため、町では「住田町の在宅医療等のあり方検討会」を設置した。
同検討会は、慶応義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室講師の山岸暁美氏、県立大船渡病院の中野達也院長、気仙医師会の岩渕正之会長ら医療関係者や、町社会福祉協議会、社会福祉法人・鳴瀬会、一般社団法人・未来かなえ機構、同法人運営の訪問看護ステーション「すみちゃん」などの町内医療・介護・福祉関係者、町保健福祉課職員ら合わせて15人の委員で構成する。
町役場町民ホールで開かれた初会合には、神田謙一町長や委員ら合わせて約20人が出席。冒頭、神田町長が「皆さんのお力を借りながら、在宅医療をはじめとするさまざまな課題に対してチャレンジしていきたい」とあいさつした。
協議では、町の現状と課題、今後のスケジュールなどについて確認。同町は今年3月末時点で人口が4851人、うち65歳以上の高齢者は2299人で、高齢化率は47・4%と高い。
令和4年末時点の要介護認定者506人のうち、居宅介護サービス受給者は316人、介護老人福祉施設利用者は70人、介護老人保健施設利用者は33人となっている。
課題としては、医師確保に加え、訪問看護の移動距離が長いために回数を増やせないこと、医療機関へのアクセスの悪さ、年金暮らしの高齢者が多いため訪問看護料の単価を上げることができないこと、安定経営が困難なために民間の訪問看護ステーションが参入してこないことなどが挙げられた。
町では医療資源が限られる中、住み慣れた地域で暮らし続ける環境づくりを目指し、診療センターの看護師や町の包括支援センター、社協、各施設、訪問看護ステーションが連携しながら在宅医療を推進。
今年4月には、医師確保や通院困難者への医療確保、自宅での看取り、人口減少地域でも採算の取れる診療体制構築などを目指し、在宅療養支援診療所のサテライト設置にかかる「国家戦略特区」を申請している。
また、検討会の中では、本年度は厚生労働省委託事業である「在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業」の連携型BCP(事業継続計画)、地域BCP策定に関するモデル地域にも選定されており、来年2月末までの期間、専門家委員会と協議しながら取り組み内容・成果案を定め、事業を実施していくことも紹介された。
今後、来年3月までに計9回の会合を設け、町として在宅医療等にどのように取り組んでいくか、どのような規制緩和が必要なのか、人口減少・高齢化社会を見据えた保健福祉関連事業・体制のあり方などを本格的に議論していく。
検討会のリーダーを務める町保健福祉課の千葉英彦課長は「医師の確保が困難で、少子高齢化が進む中だが、町民が少しでも安心して生活するには医療の支えが必要。5年、10年先を見据えたしっかりとした体制をつくることが大切だ」と力を込める。