「ネズミフグ」初採集 海水温上昇など原因か 海洋環境の変化に懸念も

▲ 陸前高田市で採集されたネズミフグ(高橋一成さん提供)

 陸前高田市の漁港でこのほど、ハリセンボンの仲間「ネズミフグ」が採集された。沖縄県で食用とされる南方系の魚で、同市博物館によると、これまでに本県沿岸部で採集された記録は見当たらないという。気仙地方沿岸では今年、ほかにも南の魚がたくさん見つかっている。背景には高い海水温や海流による海洋環境の変化があり、養殖漁業への悪影響も懸念される。
 発見されたのは23日の早朝。養殖漁業・戸刺純一さん(56)が気仙町の福伏漁港でエゾイシカゲガイの作業を行っていた際、海面に静かに浮かんでいたネズミフグを見つけてタモで捕獲した。
 捕まえたネズミフグは大きさ25㌢程度。体全体に短いトゲが無数にある。ハリセンボンよりいくらか細長く、背中に黒い点がたくさんあるのが特徴。世界中の暖かい海に生息し、日本の太平洋側では相模湾より南でみられる。大きくなると60㌢を超えることも。毒はなく、沖縄では食用とされている。
 市立博物館の浅川崇典学芸員(33)によると、「頻繁ではないにしろ、ハリセンボンやイシガキフグならばこのあたりで見つかることもあるが、ネズミフグは当館が調べた限り、本県沿岸での発見記録は見当たらない」という。
 また、今年の気仙両市ではチョウチョウウオやスズメダイの仲間など、南の海の魚がたくさん発見されている。浅川学芸員も「海で採集を行うと、10年以上前と比べて珍しい魚が見られるようになっている。今年は特に多い」とし、その要因として海水温の高さや海流の変化を指摘する。
 気象庁が今月発表した報告によると、三陸沖では昨秋以降、海洋内部の水温が記録的に高くなっていることが解析され、7月に行われた海洋気象観測船「凌風丸」による海洋内部の観測でも、平年より約10度も高い水温を確認。黒潮続流が三陸沖まで北上していることが原因と考えられる。
 今後、黒潮続流は暖水渦として切り離される予測だが、暖水渦は東北沖に残り、黒潮続流も北寄りで推移するため、東北沖の高水温は続くとみられる。これによる水産資源の分布など、海洋環境の変化は避けられそうにない。
 戸刺さんは「海水をポンプで上げると水がかなりぬるく、今年はイシカゲガイの死滅も多い」といい、戸刺さんの養殖仲間を通じて発見報告を受けた広田湾漁協あわび種苗センターの高橋一成さん(56)も、「南の魚が増えてくることは春先から予測していたが、ネズミフグは中でも特に珍しい記録になると思う。ただ、海水温が高い状態が続くと、ホタテなどの養殖漁業に与える影響が心配」と語る。
 市立博物館では「今後も海で珍しい生物が捕獲される可能性が高い。見たことのない生き物を見つけたら教えてほしい」と呼びかけている。連絡は同館(℡54・4224)へ。