マスカットサイダー 来年3月に製造終了 神田葡萄園の看板商品 原料費高騰、瓶不足響き苦渋の決断
令和5年9月10日付 7面
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陸前高田市米崎町の㈲神田葡萄園(熊谷晃弘代表取締役)は、主力商品の「マスカットサイダー」の製造を来年3月末に終了する。同市の名物として半世紀にわたって地域に親しまれ、東日本大震災後は工場の被災を乗り越えていち早く出荷を再開し、全国に人気を広げた。新型コロナウイルス禍による瓶不足と原材料高騰の〝ダブルパンチ〟を受け、苦渋の決断を下した。(高橋 信)
震災乗り越えた陸前高田名物
淡い緑色の瓶、王冠、レトロなラベルデザイン。ほのかなマスカットの香りが特色の地サイダーの歴史にピリオドが打たれることとなった。
製造継続が困難な背景には、コロナ禍のあおりを受けた全国の瓶工場の縮小・閉鎖と、原材料や資材類の継続的な値上げがある。瓶不足解消の見通しが立たず、大幅な値上げは「地サイダーとしては望ましくない」との判断に至った。製造設備の老朽化も課題だった。
マスカットサイダーは、昭和45年に誕生。同社は当時、贈答用のブドウジュースを主力商品に据えていたが、次々と安価な飲料を打ち出す大手飲料メーカーの動きに対抗しようと、製造を開始した。当初は無色透明の瓶を使用していたというが、その後、現在の緑色の瓶に切り替えるなど、マイナーチェンジを重ねながらも味は変えず、市民をはじめとして多くの人々に親しまれた。
12年半前の震災で工場やブドウ畑が被災する窮地に立たされたが、発災から4カ月後の平成23年7月に営業を再開。全国各地のボランティアや工事関係者が土産品として買って帰り、口コミで評判が広がった。それまで主に県内で流通していたが、販路が県外に拡大し、出荷本数は20万本を超える年もあった。
根強いファンを持ち、地元からは惜しむ声が広がっている。
市内随一の集客力を誇る気仙町の道の駅高田松原を運営する㈱高田松原の熊谷正文社長は「幅広い世代から親しまれており、道の駅でも非常に人気が高い。陸前高田産の土産品として、市を挙げて製造を継承するような動きにつながってほしい」と願う。
熊谷代表取締役(39)は「地元の名物として生産し続けることが大切と考えていたので、大変申し訳ない気持ち。会社としてやむを得ない事情で製造を断念するが、引き継ぐ事業者があれば積極的に協力したい」と話す。
明治38年に創業し、再来年に社歴120年を迎える神田葡萄園。今後は自社の畑を拡大し、同社の原点であるワイン醸造をメインに事業展開していく構想だ。
熊谷代表取締役は「マスカットサイダーのように、地元の人が愛し、誇れる商品を新たにつくっていきたい」と誓いを新たにする。
マスカットサイダーは、米崎町神田にある神田葡萄園の直営店でも販売している。不定休で、営業時間は午前8時~午後5時。
問い合わせは同社(℡55・2222)へ。