検証/住田町議会議員選挙(定数12) 「なり手不足」浮き彫り 3期連続無投票 有権者の選択機会どこへ

 住田町議会議員選挙(定数12)は19日に告示され、現職11人、新人1人の無投票当選が決まった。少なくとも平成の大合併以降としては県内初となる定数割れも見込まれた今選挙は前々回、前回選に続いて定数ちょうどの立候補にとどまった。有権者は3期連続で選択の機会を失うこととなり、かねてから叫ばれてきた「なり手不足」や「議会離れ」の現状が改めて浮き彫りとなった。その背景には何があるのか。実情を探る。(清水辰彦)


 「届け出が定数を超えなかったため、無投票となりました」──。19日午後5時すぎ、選挙の終了を告げるアナウンスが、防災行政無線から流れた。
 一日限りの選挙運動。立候補者たちは町内各地で選挙カーを走らせながら訴えを響かせたが、告示前から無競争ムードに包まれた町内には静けさすら漂い、スピーカーを通して響く立候補者の声を際立たせた。
 今回の選挙を巡っては、現職2人が早くから勇退の意向を示す中で新人の動きは鈍く、定数割れの可能性をはらんだまま推移。告示2カ月前に新人1人が出馬表明したが、のちに出馬を取り下げた。
 その後、新人擁立の動きが水面下で複数見られたことから、一時は競争戦の可能性も浮上したもののいずれも具体化せず、定数割れが現実味を帯びたものとなっていった。
 こうした中、8月末に新人の女性が立候補を表明。さらに告示1週間を切ったタイミングで、勇退の意向を示していた議員が周囲の説得によって引退を撤回したことで、定数ちょうどとなる立候補者の顔ぶれが固まった。

 今年4月から5月にかけて町内計9カ所で開かれた議会と住民との懇談会では、出席した住民を対象にアンケートが行われた。回答した81人のうち、議員定数について「減らした方がいい」が33人、「現状維持」が25人、「分からない」が22人、無回答1人で、4割が定数を削減すべきと答えた。〝削減派〟の意見としては「定数を減らして報酬の増額を」「人口が減少しているから」「無競争が続いているから」「今の議員活動が見えない」といった現実的な声が寄せられた。
 現状維持の理由としては、「各地区の代表的存在として、日々精力的に活動に取り組む議員を期待する」「意欲ある情熱をもった若手を町政に送りたい」「女性議員が出てほしい」など、今後への期待を込めた意見が多かった。
 こうした声を踏まえたうえ、議会としては「常任委員会の運営や、町民の多様な要望に応えていくためには、当面は現行定数が必要」との考えでまとまり、今回の改選では現状を維持することとなった。
 この方針は結果として、定数割れ寸前の状況を生んだ。幅広い住民の声を町政に届けるためにはむやみに定数を削減すべきではないが、声を吸い上げるべき住民そのものが減っている中での現状維持は、果たして的確な判断だったと言えるだろうか。
 同町議会の定数は、20だった平成7年以降、改選期ごとに2ずつ減らし、23年に現在の12となった。その間、町の人口は1400人ほど減少している。定数と人口の「減り幅」は、比例していない。環境の急激な変化に合わせた対応が求められているのではないか。
 今回当選した議員の平均年齢は66・9歳。最年少は37歳、最年長は79歳。4年後の改選期には、平均年齢が70歳を超えることとなる。町全体と同様に議員も高齢化が進む。ある町議は「もうとっくに引退していてもおかしくない年齢。地元から若手候補が出てくれれば、喜んで後を託せるのだが」ともらした。
 別の議員も担い手不足を強く認識したうえで、「次の任期で議会改革に積極的に取り組んでいきたいと考えている」と、定数見直しへの意欲をのぞかせた。

 全国的に見て、町村部で議員のなり手不足が問題となっている背景には、人口減少や少子高齢化はもちろん、報酬が低いことも要因の一つと指摘されて久しい。
 「月額21万円」。これは、平成30年度末に全国町村議会議長会がまとめた、全国の町村議会議員の平均報酬だが、この額では家族を持つ現役世代には立候補のハードルが高く、自身の生活や議員活動に必要な費用をまかなうことは容易ではなく、農業など1次産業との「兼業議員」がよく見られる。
 現在の同町議会議員の報酬は全国平均を下回る月額19万6000円。所得税や町・県民税などを差し引いた手取り額は15万円前後だ。
 「議員一本では、とても生活できない」──。町民、特にも家庭を持つ働き盛り世代からはこうした声がたびたび聞こえてくる。「極端な話、定数を半分にして報酬を倍にした方がいいのではないか」というなり手不足解消に向けた大胆な意見も、一笑に付すことはできない現状がある。

 解消されることなく積み重ねてきた〝宿題〟をさらに増しながら幕を下ろした今町議選だが、大きな前進もあった。それは、町議会史上初となる女性議員の誕生だ。議会に新たな風を吹き込み、地域の政治への意識が変わり、あとに続く人たちが誕生していくことを期待したい。
 人口減少や少子高齢化が進む地方で、議員のなり手不足の問題は一朝一夕で解消できない。しかし、地方議会は暮らしへ密接に関わるテーマが議論される。それだけに、議会側には地域全体としての議員活動や役割への関心を高める努力が求められる。
 同町では、年100人ペースで人口が減っており、コミュニティーを維持していくには、「地域全体」で支えあっていかなければならない。そのためには、誰もが活躍できる体制づくりは不可欠で、有権者側も積極的に町政に関わっていく意識を持つ必要がある。
 「政治への多様な参画の促進」──。これが、消長の岐路に立つ町議会において、今回当選した12人に課せられた至上命題ではないか。連続3期にわたって有権者の選択機会が失われている現状から、目をそらしてはいけない。