縄文文化の重要地に関心を 蛸ノ浦、下船渡両貝塚国史跡指定から90年 今月から関連事業・企画展実施へ
令和5年10月15日付 1面
大船渡市赤崎町の蛸ノ浦貝塚と大船渡町の下船渡貝塚は来年1月22日(月)に、国史跡指定90周年を迎える。同市には、縄文時代の貝塚遺跡が数多くあり、沿岸における当時のなりわいや文化を語るうえで全国的にも重要地域とされる中、市教委などは今月から来年1月にかけて展示や講演会、見学会などを企画するほか、パンフレットも新調した。魅力の発信に加え、地域住民らが足を運び、親しみを感じる機運の醸成も見据える。(佐藤 壮)
市教委が発行した国史跡指定各貝塚の保存管理計画書や大洞貝塚範囲確認調査報告書などによると、史蹟名勝天然紀念物保存法施行に基づく史跡指定候補地選定を目的に、大正13年に内務省の考査官が気仙地方の各遺跡を踏査。昭和9年に蛸ノ浦と下船渡が国史跡指定となった。
同32年には、蛸ノ浦で発掘調査が行われ、竪穴住居跡などを確認。同36年にはチリ地震津波で被災した国道移転に伴い、下船渡で緊急の発掘調査が実施された。
市内には県内貝塚遺跡のうち約3分の1が分布。国史跡は蛸ノ浦と下船渡のほか、大洞(赤崎町)が平成13年に指定された。
縄文人が食べた貝の殻が集まった貝塚では、獣や魚の骨などが良好な状態で残り、漁で用いた道具や、埋葬された人骨なども見つかる。三陸沿岸のなりわいや食文化が、縄文時代から受け継がれていることを伝える。蛸ノ浦と下船渡が本年度90周年を迎えるのに合わせ、市教委は縄文文化への理解促進や魅力発信を見据え、関連事業を展開する。
大船渡町のおおふなぽーとでは、今月21日(土)と22日(日)に出張展示「縄文の顔~ちょっとのぞいてみませんか」を開催。市内から出土した土偶を中心に、縄文人の復顔や土偶から推測される装身具など、縄文遺物を気軽に見学できる場を設ける。
末崎町の市立博物館では同28日(土)~来年1月21日(日)に企画展「蛸ノ浦貝塚・下船渡貝塚発掘物語」を計画。60年以上前に実施された両史跡発掘調査の様子や発見資料などを紹介する。
11月12日(日)午後1時からは、リアスホールで市教委主催の講演会「東北地方縄文中期・後期の文化と社会~岩手県遺跡の事例から考える」が開かれる。講師には、早稲田大学文学学術院教授の高橋龍三郎氏を招く。同大学は漁労活動の解明などに向け、市内四つの貝塚遺跡で発掘調査を行うなど、市と縁がある。
同26日(日)には蛸ノ浦貝塚などを見学する文化財めぐり「貝塚の現地を歩く!」を実施。講師は日本考古学協会員の金野良一氏が務める。
また、市教委では市内の国指定史跡の概要を紹介するパンフレットをリニューアル。A4判カラー12㌻で、市内の公共施設や、各史跡解説板にあるパンフレットボックスから入手できる。
国史跡の各貝塚は現地で見学できるが、遺物を持ち帰ったり、史跡内を掘るといった行為は禁止されている。近年は、みちのく潮風トレイルを巡るハイカーが立ち寄るといった動きが見られる半面、来訪者は少なく、100周年につながる今後は、より関心を高める仕掛けも重要となる。
市教育委員会の伊藤真紀子教育次長は「市にとって、貝塚があることは貴重な財産。周知に努め、大船渡に足を運んでもらう情報発信やPRも考えていきたい」と話す。