天然アユを地元飲食店に 県と盛川漁協が仕組みづくり着手 収入確保や観光資源創出など見据え(別写真あり)
令和5年10月18日付 1面

県と大船渡市の盛川漁協(佐藤由也組合長)は本年度、盛川で組合員が漁獲した天然アユを買い取り、市内飲食店に販売する仕組みづくりを進めている。遊漁者の伸び悩みが見られる中、組合員らの収入増加や地域経済への循環、新たな観光資源創出などにつなげたい考え。県内でも珍しい取り組みで、今後の展開や成果が注目される。(佐藤 壮)
盛川をはじめ県内河川で漁獲される天然アユは、県内市場に流通することはほぼなく、一般消費者が口にする機会は少ない。ほとんどが釣った人の自家消費か〝おすそわけ〟に回っており、「おとり鮎」以外での買い取りも広がっていないという。
全県的に漁協組合員が減少し、さらにレジャーの多様化などで遊漁者も伸び悩む傾向にある。消費機会の確保や内水面漁業の振興に向け、盛川で漁獲した天然アユを買い取り、市内飲食店に販売する仕組みづくりを目指し、県と盛川漁協が本年度から活動。県内でも初といい、県の地域経営推進費を生かしている。
組合員らが釣りや投網で漁獲した天然ものを買い取り、収入増加などにつなげる。「冷凍焼け」を防ぐため、紫外線殺菌水と一緒にビニール袋に封入。マイナス30度程度の冷凍庫で保管し、ある程度まとまった数を飲食店向けに卸す。
盛川漁協では、魚介類販売業の営業許可を取得。市の6次産業化支援補助金を受け、紫外線殺菌水を生かす設備を整えた。県の事業費を生かし、飲食店向けのスムーズな配送や梱包といった体制を整える。
漁期は例年7~9月で、本格的な買い取りは来年7月からを見込む。本年度すでに組合員から少量を買い取り、市内の一部飲食店で提供する。
17日に市内で開かれた県飲食業生活衛生同業組合大船渡支部(千葉武継支部長)の交流会に、県大船渡水産振興センターの担当職員や佐藤組合長が同席。事業概要説明に加え、アユの試食も行われた。
解凍したアユを竹串に刺し、塩を振った後に炭火で熱を入れた。試食では「香りがいい」「おいしい」といった声が相次いだ。
参加した㈲菅生の熊谷瞳美さん(38)は「もっと地物の魚を増やしたいと思っている。冷凍ということで、安定的に入手できるのも魅力。おせち料理などでも生かすことができれば」と話した。
来年度以降は、一般の釣り客(遊漁券購入者)からも買い取りを予定。他河川との差別化も意識しながら「天然アユ」を売りとした飲食店振興や、観光誘客にも期待を込める。
千葉支部長(52)は専用の焼き台を試作し、交流会で試した。「イベントでも、アユの塩焼きは子どもをはじめ幅広い世代に人気がある。観光資源の一つとして定着できれば」と期待を込める。
盛川では7月上旬の解禁日には100人超が訪れ、安全に釣りを楽しむ地点が多いことでも知られる。一方、漁協ではサケ事業が不振を極め、新たな収入確保が求められている。
佐藤組合長(69)は「今まで商品になるという発想がなかった。少しでも組合員らの収入や、組合運営のプラスにしたい。遊漁券販売の増加にもつながってほしい」と語る。