カタツムリのフィギュア特別公開 「まるで本物」350点 市立博物館で29日まで
令和5年10月19日付 5面

陸前高田市高田町の市立博物館(松坂泰盛館長)で、カタツムリの生きている状態を忠実に再現したリアルフィギュア約350点が特別公開されている。同フィギュアを常設展示している京都府木津川市の「かたつむりミュージアム ラセン館」(河野甲代表)の協力でかなった東北初の巡回展だ。その発端には、がんを患いながら東日本大震災で流された市立博物館の昆虫標本レスキューに尽力し、平成30年に亡くなった奈良県にある昆虫館の1人の女性学芸員の思いがあった。(高橋 信)
亡き学芸員の遺志受け企画
市立博物館の企画展示室。今にも動き出しそうな200種近くのカタツムリのフィギュアが飾られている。殻は標本だが、殻に取り付けられた軟体部はシリコン樹脂で造形されており、すべて工芸作家の河野代表(67)が作ったものだ。
同館によると、カタツムリの展示法は、貝殻のみの標本か、軟体部をホルマリン漬けにした液浸標本が主流となっているという。同館学芸員は「フィギュアは生きている状態を観察でき、非常に貴重だ」と強調する。

日比伸子さん(市立博物館提供)
また展示室の一角には、橿原市昆虫館(奈良県)学芸員として昆虫の調査・研究に情熱をささげ、平成30年4月に亡くなった日比伸子さん(享年52)の写真や愛用した採集用具が並ぶ。巡回展の発起人で、震災の津波で流出した昆虫標本の救出・修復に当たった日比さんをしのぼうと特設した。
巡回展は、精巧に作られたカタツムリのフィギュアに感銘を受けた日比さんと、自前のミュージアム以外での展示ができないか検討していた河野代表の思いが合致して始まったという。平成28年、橿原市昆虫館で1回目が開かれ、以降、西日本の博物館、美術館など計7カ所で開かれた。
「新しい博物館ができたら、ぜひ陸前高田でやりたい」。日比さんは生前、新たな市立博物館での巡回展実現を強く願っていたという。
全壊した博物館は中心市街地に再建され、昨年11月に開館。日比さんの現地での見学はかなわなかったが、関係者念願の展示がようやく実現した。
河野代表は「日比さんが『いつか復興したら巡回展を』と言っていたことをよく覚えている。約束をやっと果たせた」と喜び、「フィギュアを通して身近にいるカタツムリに興味を持つ一つのきっかけになればうれしい」と願う。
松坂館長は「日比さんには被災した昆虫標本のレスキューにも強い思いを持って臨んでいただき、その後も陸前高田に思いを寄せていたと聞いた。ありがたいの一言だ」と感謝。「ぜひ多くの人に鑑賞してもらいたい」と呼びかける。
展示室前には、日比さんの家族から贈られたコチョウランの花が飾られている。フィギュアの公開は29日(日)までで、鑑賞無料。問い合わせは、同館(℡54・4224)へ。