イヌワシ保全へ検討”強化も 吉浜・大窪山市有地での太陽光発電計画 環境アセス県審査会で「方法書」巡り議論 盛岡市で
令和5年11月1日付 1面
大船渡市三陸町吉浜の大窪山市有地を中心とした大規模な太陽光発電事業の環境影響評価(環境アセスメント)方法書を議題とする県環境影響評価技術審査会が10月31日、盛岡市内で開かれた。同事業は自然電力㈱(本社・福岡県福岡市、磯野謙、川戸健司、長谷川雅也代表取締役)が計画。委員からは、住民理解や計画地内の湿地を避けた道路整備、土地の安全性調査の範囲拡大に加え、イヌワシへの影響に関する指摘も。事業者側は整備代替地の可能性も含め、これまで以上に検討を強化する姿勢を示した。(佐藤 壮)
環境アセスメントは、大規模な開発事業などを行う場合、周辺環境の影響を事業者自らが調査・予測・評価を行い、その結果を公表し、県民や知事、市町村長などの意見を聞きながら環境への影響をできるだけ少なくするための手続き。自然電力は県条例に基づき手続きを進めてきた。
審査会は知事の諮問機関。環境アセスメントの技術的な事項などを調査・審議するため、委員は学識経験者ら14人で構成している。
市有地を中心に計画する「大船渡第一・第二太陽光発電所事業」の事業者は、自然電力㈱が代表社員となっている岩手三陸太陽光発電合同会社。「元山」と呼ばれる大窪山牧場跡地の約96㌶で計画し、太陽光パネルをはじめ工作物の設置面積は約23㌶としている。
委員の一人は、推進と反対で住民意見が分かれている現状に触れ、今後の対応を質問。自然電力側は「客観的にどういった影響があるかを示すために、環境アセスを進めている。今後も丁寧に説明を続ける」と述べた。
また、計画地内の湿地近くに道路が新設される影響を懸念し、計画見直しを求める委員も。自然電力側は、湿地周辺には極力道路を設けない方針を示した。
別の委員はイヌワシに関し、餌場としての機能が失われることで大きな影響を与えるとして「場所そのものを避けることも検討するのか」と追及。さらに「元山から(同じ吉浜地区の)荒金山に変えるといった規模ではなく、県をまたぐほどの検討が必要」と迫った。自然電力側は、現計画地の回避や代替地を含めた検討の可能性に言及した。
このほか、土地の安定性確保に関し、崩壊地形にパネルを敷いた際の土砂流出などを懸念し、調査範囲の拡大を求める声も。計画地での「人と自然との触れ合いの活動の場」の現状について、検討を深める必要性も話題となった。
審議終了後、自然電力の担当者は「(イヌワシの保全に向け)県外も含めた回避について検討することは必要と感じているが、やはり回避が難しいということになれば、その理由や他の代替地の可能性などもしっかり示していきたい」と説明した。
審議会を踏まえて今月中に出される知事意見や、これまで寄せられた方法書への意見などを踏まえ、今後1年程度をかけて準備書の作成を進める。その間も、説明会や専門家の審査を受ける方針。修正・取りまとめを経て評価書を作成した後で工事に入り、その後、環境保全措置の実施状況を取りまとめた報告書を作ることにしている。
土地所有者の市は、自然電力が実施する環境アセスを含めた法令に基づく手続きの流れを見ながら、住民理解の進捗なども踏まえ、事業可否の総合的判断を固める方針。
この日の審議会では、方法書に対する市長意見も示された。総括的事項では「地域住民と適切なコミュニケーションを図り、事業について理解を得られるように努めること」「環境影響評価を行う過程で新たな事情が生じた場合は、必要に応じて項目や手法を見直すとともに、最新の知見を取り入れながら追加的に調査、予測、評価を行うなど適切に対応を」としている。