多用途木骨ハウスに光  東北地方発明表彰受ける 木楽創研の熊谷さん 耐久性や活用の可能性評価  

▲ 熊谷さんが開発し、リアスターファームのイチゴ栽培などにも活用される「キラクトラス」。真夏でも内部が暑くなりすぎず、中柱が不要で、スペースを最大限に活用できる

 大船渡市赤崎町にある木楽創研㈱代表取締役・熊谷秀明さん(60)が開発した「柱梁ユニットおよびこれを用いた小屋構築体(商標=キラクトラス)」が、公益社団法人発明協会による本年度の東北地方発明表彰で「日本弁理士会会長賞」を受賞した。農業用ハウスなどとして使われる、間伐材を用いた独自工法のユニットで、加工や構築が容易でありながら保形性、耐久性に優れ、かつ空間も有効活用できる点や、用途の面でさまざまな可能性を秘めている点などが高い評価を受けた。(鈴木英里)

 

 「キラクトラス」として販売される同ユニットは、8点の軸で固定する柱と梁からなる。木材の長さ、並べるユニット数を柔軟に変えられるため、さまざまなサイズ展開が可能なうえ、構造が簡易で施工も容易。また、一般的な合掌造りの構築物と比べて小屋内の空間をより広く利用できるなど、メリットが多い。
 従来の主流である鉄パイプや鉄骨の農業施設との違いも魅力で、同市三陸町越喜来などでイチゴの通年生産を行う㈱リアスターファーム(太田祐樹代表取締役、本社・陸前高田市)をはじめ、青森県のトマト生産農家などでキラクトラスによるビニールハウスが活用されている。溶接が不要なため、用途に合わせて利用者が棚を追加するなどレイアウトの自由度が高い。また合掌造りの施設と同等の強度でありながら部品点数が少なく、より多くの日射量確保にもつながる。
 リアスターファームの太田代表取締役(46)は、「中の空間が広く取れるため、同じ面積でもより多く栽培できる。温度が上がりすぎると問題になるイチゴ栽培だが、木材ならば鉄と違い、輻射熱も出ない」と利点を説明する。
 被覆材と内部設備の組み合わせ次第で、ハウス以外にも用途が広がる。近年は、確認申請が不要で価格が抑えられることから、県内外で簡易畜舎としての利用も増えているという。
 さらに、1平方㍍あたりの積雪過重が50㌔、風速50㍍まで耐えられる構築物を目指し、耐候性の実証実験も行っているところだ。実現すれば、台風が多い西日本や、豪雪地帯でも活用が見込まれる。
 熊谷さんは展開の広がりを見据え、西ヨーロッパなど14カ国での特許も取得した。技術を独占するためではなく、さらなる技術向上や普及を目指してのことだ。
 間伐材の価値が低いために伐採が進まず、伐採されないため森が荒れる――。この連鎖を断ち切りたいと生み出された「キラクトラス」。〝気楽〟に木が使われ、〝活木〟ある社会をつくりたいと考えてきた熊谷さんは、「さらに強度が出せれば、海外では住宅用として使ってもらうことも考えられる。設置が容易で丈夫だから、被災地域などでもさまざまに活用できるだろう。社会をよくするための技術として、もっと普及を図りたい」と、この受賞をきっかけに意気込みを新たにしている。
 地方発明表彰は大正10年、地方における発明の奨励・育成を図り、科学技術の向上と地域産業の振興に寄与することを目的に創設。全国を8地方(北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州)に分け、各地方で優秀な発明の考案や普及に貢献した人々を表彰している。
 熊谷さんが受賞した日本弁理士会会長賞は、文部科学大臣賞、特許庁長官賞などに次ぐもので、中小企業庁や発明協会といった関係団体名を冠した賞の一つ。同ユニットは平成27年にも東北地方発明表彰での奨励賞を受賞したが、その後も改良を重ね、29年に特許を取得し直している。