地域の財産 外観ほぼ完成 「旧吉田家住宅主屋」復旧進む 震災で全壊 7年5月に一般公開
令和5年11月26日付 7面

東日本大震災で全壊し、陸前高田市が復旧を進める気仙町今泉地区の県指定有形文化財「旧吉田家住宅主屋」の外観が、完成形に近づいている。今後は土間や座敷など建物内の造作、外構工事が本格化する。災禍を乗り越え、現代によみがえる地域の財産は令和7年3月の完成、同年5月の一般公開を予定している。(高橋 信)
世界的に類のない津波被害を受けた木造文化財の復旧事業。市は気仙大工・左官の粋を集めた伝統建築の素晴らしさを肌で感じてもらおうと、団体を対象に現場見学を受け入れている。見学者は令和4年度が784人で、本年度は21日時点で588人となっている。
今月中旬に見学した米崎町の70代女性は「現場を見るのは初めてだったが、奥深い話がたくさんあって勉強になった。今後も2度、3度と見に来たい」と関心を寄せた。
主屋は昭和40年代の増築分を除き、県文化財指定時(平成18年度)の姿に戻す。立地する場所は海抜約10㍍の高さまでかさ上げされたが、建物の向きや位置を以前のまま〝垂直移動〟させて復旧する。主屋の柱などの下に100カ所以上置く「礎石」は、設置位置や石の向きなどを忠実に再現した。
目を引くかやぶき屋根は、直径20㌢前後にまとめられた1万6000束にも上るカヤを使用。仙台藩の統括地だった「ストーリー」を大事にするため、本県ではなく、宮城県内のカヤ職人から仕入れた。
今後の外構工事では完成後の出入り口にもなる正門や、かつて水面に映る月の観賞を楽しめるとされた「月見の池」などを復旧する。火災からかやぶき屋根を守るため、放水銃を新設する。
棟りょうの気仙大工・藤原出穂さん(75)は「メインの主屋がほぼ完成し、順調に進んでいるが、工事はこれからも続く。注目されている文化財なので、気を引き締めてやりたい」と話した。
吉田家は江戸時代に仙台藩の旧気仙郡(陸前高田市、住田町、大船渡市、釜石市唐丹)24カ村を統治する地方役人の最上位職「大肝入」を代々世襲し、郡政の中心的な役割を果たしてきた。
その屋敷の同住宅は、享和2(1802)年に建築され、藩政期を物語る遺構として、平成18年9月、主屋、土蔵、味噌蔵、納屋(長屋)の1件4棟が県指定有形文化財(建築物)に指定された。
同住宅は震災で今泉地区のまち並みとともに流失。部材の残存率などを踏まえ、平成30年12月、主屋1棟のみを県の文化財として指定継続することが決まり、名称も「旧吉田家住宅主屋」に変更された。
復旧業務は、市建設業協会が受託。総事業費は約10億円となっている。
市教委管理課の担当者は「見学を通じて気仙大工・左官に関心を持つ人の増加にもつながれば。外構工事が始まり、完成後、より快適に見学できるような環境を整えていきたい」と見据える。
団体の現場見学は工事の進ちょく状況などによっては対応できない場合があることから、事前予約を呼びかける。
問い合わせは、同課文化財係(℡54・2111内線554)まで。